黒澤:最終的には作品にまつわる言葉だと思うんです。答えでもなければ解説でもないけれど、その作品の周辺をウロウロする言葉が一体、どういう言葉なのか。その言葉を使うことが大事になってくると思います。
例えば、“関係”のような言葉を普段何かの名称としてはなかなか使わないじゃないですか。言ったとしても、人間関係・男女関係くらいだと思います。作品にまつわる言葉は全然知られていないものでもなく、必ずしも難しいものでもない。ただ、日常的にあまり使わない用法で使ったりする、そういうことを知ることで、別な思考の仕方に気づくこともできる。
高橋:今回のオーディオガイドでは、学芸員がそれぞれ自分の言葉で話しています。アーティストが直接話しているわけではないですが、美術館の空間に作品を置いた当事者が、作品が置いてある理由をきちんと語る。調査研究している人間だからこそ語れる言葉を聞くことで、見方が変わり、作品をもっと楽しむためのヒントを見つけるサポートができると思っています。認知心理学の実験に使われるスピニングダンサーの錯覚のように、人は自分が見たいようにしか見られないし、聞きたいようにしか聞けないという意味では、他の人の言葉は自分の想像力を広げてくれるツールになるので、ぜひ活用してもらいたいですね。
学芸員は、もっと前に出ていくべきだ
成瀬:先ほども話したのですが、今回のオーディオガイドのメインは学芸員さんです。展示自体もコレクションが中心なので、学芸員さんの思い入れがある作品も多い。それで学芸員さんが前に出して、作品の魅力を伝える内容にしたのですが、日本の美術館には学芸員さんを表に出すことはどうなのか、という声もあります。それについて金沢21世紀美術館はどう思っているんでしょうか?
黒澤:多くの美術館でギャラリートークが開催されていると思います。チラシなどには「学芸員によるギャラリートーク」と書いてあるのですが、実際にギャラリートークに行くと「学芸員の○○です。××を専門にしています」と言ってトークを始めるので、決して表に出していけないわけではない。名前を出して話をすることはおかしなことではないですし、逆に言うと名前を出してやるからこそ責任を持って話ができる。この話に関する責任は自分でとる、と。責任をとれるからこそ、何でも話せるところもある。
例えば記事を書く際、記名と無記名では原稿の書き方が変わってくると思います。記名の場合は、書き手の経験に基づいた言葉で説明がなされるので書き手の立ち位置も伝わるしその方が読者にも内容がわかりやすい。個人的には単純にそのようなことなのかな、と思っています。
成瀬:こういう議論が生まれること自体が僕は新鮮だな、と思いました。海外のミュージアムに行くと、学芸員のOOがキュレーションした展示、をよく見かけます。どうして日本で、こういう議論が起きているのか。その理由を聞いてみたいです。