ひとつはコレクションを軸にして現在を眺めてみるためです。金沢21世紀美術館はコレクションを開始してから20年ほど経つのですが、それらのコレクションはどのように・どのような現在を映し出しているのかを検証する。その場合、他にテーマをつけるよりも素直に“現在地”の方が作品を扱いやすく、展示全体も見せやすいので、現在地という言葉が選ばれています。
もうひとつの理由ですが、金沢21世紀美術館を開館する際に初めて開催した展示会のタイトルが「21世紀の出会い−共鳴、ここ・から」だったんです。タイトルの中にある“ここ”には当時、2つの意味がありました。ひとつは場所、つまり“ここ”を石川県の金沢市と捉えてもいいし、あるいは日本海側のエリアと捉えてもいいし、はたまた大きなユーラシア大陸の一番東側と捉えてもいい。それからもうひとつは時間軸としての“ここ”、21世紀のスタート地点ということも意識していた。まだ開館から15年しか経っていないですが、15年が経ったときの“ここ”は少し違うフェーズになっているのではないか。今の“ここ”はどこなのか、そういった意味でも現在地という言葉を使っています。
高橋:「現在地[1]」はいかにコレクションを読み直すか、ということも問われていて。今回、展示室11前で小特集しているフランスの芸術家ピエール・ユイグとフィリップ・パレーノが行った独創的なプロジェクト「No Ghost Just a Shell」は実は20年くらい前の作品なんです。
それをいかに“今”と接続し、未来を見せていくか。過去と今をつなげ、そして未来を考えるためのキーワードでもあります。作品の価値もそうですし、現代的な作品が過去から引き継ぐ普遍的な主題をいかに更新して見せるか、が「現在地」というキーワードに凝縮されていると思います。
成瀬:15年間開館していた中で、もう8年以上オーディオガイドを公開していなかったと聞きました。なぜ今回活用しようと思ったのでしょうか?
黒澤:決っしてオーディオガイドが不要だと思っていたわけではなくて。活用したい思いはあったのですが、コンテンポラリー・アート・ミュージアムの、特に企画型の展覧会では活用が難しい側面もあるんです。
その都度テーマがあり、展示会にあわせて作品がつくられることもある。そうなると蓋をあけるまで作品を見ることないため、あらかじめオーディオガイドを用意しておくのが難しい。仮にオーディオガイドを用意しようと思ったら、展示会をしばらくオープンせずに準備期間を設けるなどしないといけない。でなければ会期の途中にようやく間に合わせる、にしても、コストをかけて準備をしながら終了したらそこでおしまいです。
もちろん、美術館の内外からオーディオガイドとは言いませんが、作品を解説する何かがあった方がいいという声は当然あります。そうした来場者のニーズをオーディオガイドですべて解決できるとは思っていませんが、ニーズを満たすためのひとつの方法ではあるな、と。「現在地:未来の地図を描くために」は特にコレクションを基軸にした展示会をイメージしていたので、コレクションであれば、あらかじめどういった作品であるのかを学芸員も知っていますし、今後公開する際にも使える可能性がある、これを機にオーディオガイドについて考え直してみるのもいいのではないかということです。