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2019.10.13 18:00

日本の出汁に魅せられたNYの3つ星シェフと魚料理


そんなリパートの料理のなかで大きな役割を占めるのが、日本料理の出汁だ。鰹昆布出汁をつくって醤油を加えることもあるし、醤油を使わずにバジルやミントを手のひらでこするようにして香りを出して仕上げに入れ、2〜3分軽く香りを抽出してから使用する。ハーブだけでなく、出汁に生の大根を入れることもある。大根の持つ力強い大地の味を出すのが目的だ。

この手法を、鰹昆布出汁以外に応用することもある。塩も何も加えないマッシュルームを水に入れて一晩かけて旨味を抽出して出汁をつくり、使用する直前にレモンコンフィを加える。

旨味のしっかりとしたベースをつくり、生き生きとした香りを直前に加えるという手法だ。旨味などの味はしっかりとしているが、油分は少なく、すっきりとした香りが加わることで、食べ口が軽やかになるという。

ソースの油分は、香りを引き留める役割を持つが、油分のない出汁の場合、香りはすぐに飛んでしまう。だからこそ、こういった香りの要素は日本の出汁の鰹節のように、供する直前に加えることが重要なのだという。

「輸送や保存の技術の発達で、食材は昔よりもより味わいも香りも豊かになりました。だからこそ、こういった出汁の軽い味わいが合うようになってきているのです。これは、日本料理の考え方と通じるものがあります。ベストの食材を選び、付け合わせなどを加え過ぎず、食材そのものの味を表現するスタイルです」


CRAB Dungeness “Crab Cake;” Old Bay Crisp, Shellfish-Cardamom Emulsion 2017 by Daniel Krieger

時代は、食材の味を生かした料理に向かっている。だからこそ、魚も「たくさん獲ればいい」のではなく、いかに獲り、私たち消費者も何をどう選ぶかが重要になってきていると言えるだろう。

選び、守る漁業へ。それに必要なのは、教育だとリパートは言う。子どもの頃から、どのような魚を食べるかという教育をし、自然の中にあるものに、敬意を持って向き合っていかなければならない。

「養殖で増やせば食べられるのだから問題ない、そのような対症療法的な考え方ではなく、根底にある今の自然の海洋の現状にしっかりと向き合わなくてはならない。日本には、自然のすべてのものに神が宿るという、素晴らしい考え方があるのだから」
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文=仲山今日子

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