店では、魚料理のみのテイスティングコースの他、アラカルトなども含めて常時30種類ほどの魚を扱うが、それらはすべて、リパート自身が産地に足を運んで、漁法まで確認したものだ。
そのなかでも、スペインはアンダルシア地方でのクロマグロの漁獲方法は印象的だったという。地中海の回遊のルートに網を張り、一定数が集まったところで、ダイバーが銛を持って潜り、1尾ずつ獲る。銛を使うのは、この地域に数千年間伝わる伝統漁法だからだ。その様子も、漁船の上からリパートは確認した。
「成長した大きな魚だけを選ぶから、獲りすぎることも、幼魚を獲ってしまうような混獲もなく、漁獲量と質がきちんとコントロールされている。そのおかげで、この地域のクロマグロの個体数は回復してきているのです」
こうしたマグロは船上で瞬時に神経〆をして、血抜きの処理をされ、1時間もしないうちに切り身になる。1尾ずつ捕えるからこそできる丁寧な仕事で、食材としての質を高めることは、命に対する敬意でもある。
地中海はクロマグロの産卵地としても知られるが、産卵の期間は漁船が入れないようになっていることも個体数の回復につながっている。
日本の出汁が大きな役割を占める
左がエリック・リパート 「ラ・リスト」2019年日本版の表彰式にて
リパートは「ジャマン」時代の故ジョエル・ロブション氏の元などでクラッシックなフランス料理を学んできたが、常に味覚の根本には子どもの頃から食べてきた地中海料理があったという。そして、時代を追って料理が軽くなってきていることにも影響を受けたと語る。
自身の昔からの味覚をベースに、軽さを重んじる時代の流れのなかで生み出されたリパートのスタイルは、「生き生きとした料理」だという。そして、彼の料理は、日本からも大きく影響を受けている。
初めて日本を訪れたのは15年前のことだが、「Nobu」の松久信幸シェフや「Masa」の高山雅芳シェフなどの友人たちを通して、リパートは日本のことを学んでいた。「私の料理は、多様な民族のるつぼであるNYに影響されていますが、最も影響を受けたのは日本です」と彼は言い切る。