辛味を追求するメキシコ人シェフが供する「伝統の昆虫食」

秋田錦牛のグリル、グリルしたナスのピューレ、ウドの花、ピコデガヨ(ネギ、チリ、レモンジュースの調味料)、サルサボラチャ(テキーラを使ったソース)とココパチ


バイェホは「過去は研究するけれども、それにこだわるのではなく、いつもオープンマインドでいたい」と語る。

「トマトのないヨーロッパ料理なんて考えられないでしょう? でも、トマトは南アメリカ大陸から16世紀にやってきた食材です。そして今、メキシコ原産の唐辛子を、ノーマのレネ・レゼピが、いまデンマークで使っている」

食材も調理法も、日々新しい挑戦をしていく。なぜなら、それが料理の発展してきた歴史だからだ。


マンゴーの「カオス」マンゴーソルベ、赤い果実

昆虫食は世界で普及するか

バイェホに、「昆虫食が今後普及するかと思うか」聞いてみると、「メキシコにとっては歴史的な背景があり、その味が好みなので使っています。先住民のコミュニティを支えることにもなります。しかし、これだけ世界中に昆虫がいるのに、それを食べる文化があまり一般的でないのには、何か理由があるはずです」と否定的だった。

「私は、安定して良い食材を手に入れるために、先住民の人たちに農業のアドバイスを行うなど、多くのコミュニケーションを取っています。彼らにはエネルギーがあります。いまの生活をより良いものにしていきたいという情熱です。そこからいつもパワーももらっています」

同時にバイェホは、彼らに「何が健康的でより良い生活か」ということも伝えていきたいともいう。先住民の人たちは、食料を売って得た現金で、例えば袋に入ったポテトチップスを買って、それを食べるのが格好いいことだと思っているのだという。

「私も子どもの頃はそうでした。クラスメイトがアメリカ土産に買ってきてくれた、鮮やかなキャンディは、とてもクールなものでした。でも今は違います。私は自分の子供たちに、キャンディではなく新鮮なフルーツを食べさせます。本当に良いものは健康なもので、それは目の前にある。それをきちんと知り、選んでいくことが、未来の食にとって大切だと考えています」


ワカモレとチップス

メキシコでも、4〜5年前から、ヘルシーな料理がブームになり始めているという。

「インスタグラムなどSNSによる影響が大きいですね。世界のトレンドが、より早く流れ込むようになった。私たちシェフは、流す情報にも気をつけていかなければならない」

地域に埋もれた食材を使うことで先住民の暮らしを守り、世界の辛味を取り入れることで、より自由なメキシコ料理の表現を追求するバイェホ。情報のスピードが速くなり、世界がより小さくなった今、地域の固有のユニークさを大切に保ちつつ、より健康的に、軽やかにという世界の流れと地域の個性を融合していく。これが、次の時代の新しいメキシコ料理を、そして食文化を作っていくことだろう。

文=仲山今日子

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