ライフスタイル

2019.10.06 17:00

辛味を追求するメキシコ人シェフが供する「伝統の昆虫食」

秋田錦牛のグリル、グリルしたナスのピューレ、ウドの花、ピコデガヨ(ネギ、チリ、レモンジュースの調味料)、サルサボラチャ(テキーラを使ったソース)とココパチ

秋田錦牛のグリル、グリルしたナスのピューレ、ウドの花、ピコデガヨ(ネギ、チリ、レモンジュースの調味料)、サルサボラチャ(テキーラを使ったソース)とココパチ

レストランで席についたとき、「何かアレルギーなどで制限されている食材はありませんか?」と聞かれるのは通常のことだ。しかし、この日の会話は次のように続いていた。

「メキシコの文化に根ざしたエキゾティックなものも提供されますが、大丈夫ですか?」

今年の4月から来年1月まで、レストランのプロデュースを行うグラナダが世界から30人以上のトップシェフを招き、さまざまな料理を供しているポップアップレストランがある。日本の食材や器などの食文化を海外からの視点で再発見してもらう「クックジャパンプロジェクト」。前出の問いかけがあったのは、そこでのことだった。

目の前に置かれたのは標本箱

この日、厨房で腕をふるっていたのは、2018年の「世界のベストレストラン50」で11位となり、メキシコでナンバー1に輝いた「クイントニル」のホルヘ・バイェホ シェフだ。


ホルヘ・バイェホ シェフ(左)と「COOK JAPAN PROJECT」のエグゼクティブシェフ、ジェローム・キルボフ(右)

「少し前まで、メキシコ料理というのは、ヨーロッパの料理などよりも下に見られてきた」と語るバイェホ。彼には、「昔ながらの暮らしを守る先住民が採集した食材などを使うことで、彼らの生活を守り、経済的にも豊かにしていきたい」という思いがある。

国内にいまも多数遺るマヤ文明のピラミッドが示すように、メキシコには古代から高度な文化が存在していた。そこに自然環境の多様さも加わり、豊かな食文化を生み出しているのだ。前述のランキングで何度も世界一に輝いた、デンマーク・コペンハーゲンの「ノーマ」もこの地でポップアップを開催している。

バイェホのサプライズは、コースの3皿目の前にやってきた。「次のお料理は、こちらを使っております」と恭しく目の前に置かれたのは、標本箱だった。

そのなかに2センチほどの蟻がピンに刺されて行儀よく並んでいる。あわせて渡されたカードの片面には精密な絵が描かれ、反対面には「チカタナアリ 地域:ゲレーロ 分類:ハチ目」と記され、その生態や現地での食べ方なども書かれてあった。


チカタナアリでマリネした車海老の炭火焼き

メキシコで昆虫食は一般的だが、多く食べられているのは、テキーラの原料にもなるサボテンの仲間、アガペの根を食べる芋虫のような虫だ。だがバイェホは、あえてこの日、蜂の仲間のチカタナアリと、カブトムシの一種であるココパチと呼ばれるメキシコでも比較的珍しい虫を選んだ。

「いずれもメキシコの先住民の間で長年食べられてきた虫です。チカタナアリは雨季の前の4月から5月にかけての2週間ほどしか採集できない貴重なもの。硬い羽を取り除いて、そのまま生で食べますが、今回はオーブンで焼いてから細かいペーストにしています」

この日、チカタナアリは、車海老の炭火焼のソースのなかに使われ、その脂分が、唐辛子と玉ねぎのやや甘味のあるソースにラードのようなコクを加えていた。
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文=仲山今日子

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