この日は、来日している彼へのインタビューだった。日本で出版されてから約3年。スコットにとって、どんな「ライフ・シフト」があったのかを聞いた。
待つこと10分、少し疲れた顔をして入ってきた彼に、「どうしました?」と訊くと、「ホテルからずっと歩いてきたんだ」と答える。彼は宿泊しているホテルから50分かけて、蝕む暑さの中、取材会場まで歩いてきたというのだ。
「健康のために歩くようにしているんだ。あの本を書いて、もっと健康に目を向けるようになったんだ」
『ライフ・シフト』は長寿化が進み、人生を100年と考える時代が現実味を帯びてきたときに、どのように生きるかを考察する本だ。仕事、時間、お金、人間関係などさまざまな視点から書かれている。もちろん、この研究を重ねてきたスコット自身の人生も、そのモデルケースとしと著書に反映されているといっても過言ではない。
日本で出版されてから約3年、スコットにとって、この間どんな変化があったのか。また、本を執筆する前と後ではどのように生活が変わったのか。彼の人生から見えてくる「ライフ・シフト」について聞いた。
指輪ではかる健康
スコットは、自らのライフ・シフトを実践するにあたって、まず3つの習慣を身につけたという。1つ目は、冒頭のエピソードでもわかるように「運動」だ。100歳まで、健康で生きるか、病気と共に生きるかは、大きな違いがある。なるべく長く自らの体で動けるように、スコットはさらにこれまでより本気で身体を動かすようになった。
スコットは専属トレーナーをつけ、週に2、3回ジムに通うようになった。取材中にもつけていた指輪は、心拍数、睡眠、酸素、歩数などさまざまな数値を測ってくれる測定ギアだ。そして、もちろん開口一番の発言にもあったように、散歩は欠かせないものとなった。
彼の著書では、健康は人生100年時代において必要であり、お金に換算できない、見えない「資産」として書かれている。
「100年以上にわたりマルチステージの人生を生きるためには、健康を維持することがきわめて重要だ」
「不健康の代償は、経済的な面でもそれ以外の面でも甚大なものになりかねない」
(『ライフ・シフト 人生100年時代』東洋経済新報社、2016年)
インタビューの最中にも、スコットは「今やっていることは、明日に影響し、明日やることは、未来に影響する」と自分に言い聞かせるように語るのだった。