金融の世界からの転身
「習慣」とは言わないかもしれないが、彼の人生に大きく影響を与えたのは、途中で自らの研究テーマをガラリと変えたことだ。
それまで経済学者として、中央銀行や財務省などと不況や金融危機についてレクチャーするような仕事が多かった。しかし、スコット自身が金融業界に飽き始め、新しいテーマを探し始めた。そこでこの本の元になった「長寿化」のテーマを見出したのだという。
経済学者としても、個人としても興味深いテーマとして、新しい領域に踏み込んだことを嬉しそうにスコットは語った。著書の中でも、自分のように「変身」を遂げる大切さが書かれている。
「100年ライフの大きな特徴の1つは、ライフスタイルと人生の道筋が多様になること」(『ライフ・シフト 人生100年時代』東洋経済新報社、2016年)
いままで確実性と予測可能性が高かった人生から、より不確実性が高まっていく。将来どんな仕事に需要があるのか。どんな自己投資をしたらいいのか。10年後でさえ、読みづらい時代になってきている。
そのなかで重要なのは、「変身資産」だという。健康と同じように見えない「資産」の一つとして挙げられている変身資産とは、「人生の途中で変化と新しいステージへの移行を成功させる意思と能力」(『ライフ・シフト 人生100年時代』東洋経済新報社、2016年)のことを指す。
終身雇用制度や年功序列の崩壊が始まり、雇用の流動化も進むと、個人で稼ぐことが当たり前の時代が近づいている。そのなかで、時にはいまあることにピリオドを打ち、別のステージに移る軽やかさが必要になってくるというのだ。スコット自身も、長年携わってきた金融の世界を離れ、異なる分野で挑戦することで、新しい自分の可能性に出会うことができた。
必ずしも成功を約束するわけではないが、変身資産を蓄えることで、その確率は増していくだろう。
以上の3つの変化が、スコット自身に訪れたものだったという。共著者とはいえど、どの変化も簡単なものではなかっただろう。しかし、本当の「ライフ・シフト」は、本を読むだけでなく、行動に移してからがきっと始まりだ。スコットが日本を訪れても日々の散歩を続けているように、ひとつひとつの自らの行動が未来の自分を決めている。