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2019.09.26 18:00

『ライフ・シフト 100年時代の人生戦略』の共著者に訪れた3つの変化とは

アンドリュー・スコット


子どもの意見を受け入れる
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次の習慣は、意外なものだった。「子どものことをより理解するようになった、と思う」と遠慮がちにスコットは話し出した。なぜ、このようなことが人生100年時代に重要な習慣なのだろうか。それは、スコットのあるコミュニケーションの失敗がきっかけになっている。

2番目の息子が、ちょうど大学の最終学年を迎えていたとき、「お父さん、話があるんだ」と話しかけてきた。何の話かと思いきや、いきなり「就活はしない。何年間か旅に出るよ」と言い出したという。
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思ってもみない息子の決断に、スコットはまず怒りがこみ上げてきた。良い大学で、経済学を学び、優秀な成績をおさめている息子だった。なぜそんなことを言い出すのか。

同時に、怒りに震えている自分を冷静な目で見るもう1人の自分も発見した。なぜここまで彼に対して怒っているのだろうか。まず1つに、「羨ましい」という感情があったのだ。スコット自身も大学で経済学を学び、そのまま投資銀行に職を得た。しかし、振り返ればその時間は無駄だった。投資銀行にそのまま入るという判断をしなかった彼が羨ましかった。

そして、怒りは「不安」からもきていた。自分が大学の頃は、大学卒業後、すぐに定職に就かなければ周囲から問題があるとみなされていた。2,3年、期間が空けば、仕事に就くのはより難しくなり、履歴書を出すと「(その間)何をしていたのか」と問い詰められた。

そのイメージから、息子が仕事に就けなくなるのではないかという不安にかられた。しかし、「もう時代は変わったんだよ」と息子は言葉を返した。実際に、旅に出た息子は、ホテルで働きながら世界中をまわった。今はコンサルタント会社で研修を行なっている。彼がいちばん若い研修生だという。

このように、人生100年時代では多様な価値観に触れる機会が多くなる。自分のこれまでの常識が、まったく通用しなくなることもある。スコット自身がそれを経験している。そのとき、頭ごなしに自分の信じてきた価値観を押し付けるのではなく、自分とは価値観が異なるものとして相手を理解しようとすることが重要なのだ。工業化によって年齢で隔離されていった時代から、より長い時間生きることで、多様な世代の人たちと接する機会は増えていく。

「世代を越えた人間関係が築かれれば、年齢に関する固定観念や偏見も弱まる」(『ライフ・シフト 人生100年時代』東洋経済新報社、2016年)と、スコットは息子に対していきなり怒りをあらわにしてしまった自分への自戒も込めて、読者に訴えかけている。
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文=井土亜梨沙、写真=小田駿一、協力=株式会社タトル・モリエイジェンシー

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