その当時活躍していたにもかかわらず、埋もれてしまった女性に再びスポットライトを当てるにはどうしたらいいのだろうか。歴史の教科書を作り直すのがベストな解決策だろう。しかし、そのためにはあまりにも膨大なコストがかかってしまう。
そこで女性エンパワメント団体である「Daughters of the Evolution」は、歴史の教科書を作り変えずに、歴史上重要であるはずの女性たちにスポットライトをあてる方法を考えついた。それが「Lessons in her story」というAR技術を用いたアプリだ。
アプリをダウンロードし、歴史の教科書に写る男性にかざせば、自動的にその男性に関連した女性のイラストが写る。その女性こそが教科書には載らなかったけれども、社会を大きく動かした1人として考えられる人物だ。こうして約90人の女性のストーリーが見られるようになっている。
例えばゴールドラッシュのきっかけとなった「ジェームズ・マーシャル」の画像にかざせば…
「ロッタ・クラブツリー」が可愛いイラスト、アニメーションや文章と共に写る。彼女はゴールドラッシュとともに家族でサンフランシスコに引っ越し、6歳で最も有名な子役の一人として活躍した。そして20歳になるまでに、当時アメリカで最も稼ぐ女優となった。
このアプリの特筆すべき点は、どんな教科書でもスキャンが可能だということだ。その理由は、歴史上の人物の画像は、当時写真技術が発達していなかったため、限られたものになっている。どんな教科書でも同じ写真が使われていることが多いため、このアプリが機能するのだ。
アメリカの教科書を持っていない日本の子どもたちでも、アプリをダウンロードし、「I don’t have a textbook(教科書を持っていない)」ボタンを押せば、歴史の教科書に埋もれてしまった女性の一覧を見ることができる。そこには、聞いたことのない名前の人ばかりだ。
詳しくは、この動画を見てほしい。
日本人女性の名前も
このアプリにはアメリカに関連した日本人女性も登場する。江戸時代末期、アメリカに渡ったジョン万次郎の写真にかざすと、日本人女性のイラストが浮かび上がる。伊藤おけいだ。
彼女のことを知っている人は、日本にどれくらいいるだろうか。筆者も初めて聞いた名前だった。
伊藤おけいは、日本からアメリカに渡った日系移民団の一人だった。アメリカ本土で最初に亡くなった「日系移民の女の子」として、彼女のお墓は今もカリフォルニアにある。わずか17歳で親元を離れ、アメリカの地に渡った少女は、2年後に熱病でこの世を去ったのだ。
なかなか知られることのない彼女のストーリーは、現代のアプリ技術と社会課題を解決しようとする知恵によって、現代によみがえり、子どもたちにも伝えられている。
この画期的なアプリ、「Lessons in her story」は、世界最大級の広告祭であるカンヌライオンズのモバイル部門でゴールドを受賞した。グランプリの次に優れた作品に贈られる賞だ。シンプルなアイディアで歴史をアップデートしたこのアプリは、11万人の人にすでにダウンロードされている。
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