継続的に「カスタマー・サクセス」にコミットする
サブスクリプションのような継続利用が前提となるストック型ビジネスでは顧客の離反を何よりも避けなければならない。そのためには、サービスの“ありがたみ”を継続的に実感してもらう購入後のバリュー・プロポジションの設計がカギだ。顧客の問題を解決し本来やりたいことをサポートする「カスタマーサクセス」にコミットしなければならない。ポルシェのサブスクでは顧客の望む場所に車を届け、ピックアップもしてくれるサービスがあるが、利用する度に契約者に有り難みを感じさせる一つの工夫だろう。
他の市場で成功しているサブスクでも、たとえば、世界最大の音楽ストリーミングサービスのスポティファイは、4000万曲以上という膨大なセレクションの中からユーザーが好む曲のタイプを自動的に学習し使うたびごとに自分仕様に進化してゆく、という工夫がされている。実際に使ってみると、とても便利だ。従来のCD購入にはない日常的に実感できる経験価値が組み込まれている。
ビジネスモデル変革への本気度が問われる
サブスクリプションは企業と顧客のダイレクトな結びつきを加速させる。その結果、販売代理店や小売店のような顧客と企業の間に入る存在の役割が曖昧になる。
先述したボルボのサブスクは、まさにこの問題に直面した。カリフォルニア州のボルボのディラー団体は、メーカー主導のサブスクによって同じ車種のリースや販売を行っているディラーのビジネスが侵害されていると主張し、ボルボのサブスクリプション・サービスの中止を求めて訴訟を起こしている。
ボルボのように、顧客と直接つながるサブスク本来のあり方を目指せば、既存のビジネスモデルのしがらみによって摩擦が起きる恐れもある。難しい決断だが、サブスクを試金石として経営のビジネスモデル変革への本気度が問われており、中途半端な解決策は取るべきではないだろう。パナソニックの有機ELテレビのサブスクでは、系列販売店の役割とメリットを重視し企業側の論理を優先した反面、顧客からはクレジット販売と比べて何がメリットなのか分かりくいとの声も聞こえ、苦戦しているようだ。
ちなみにボルボは、2020年代半ばまでに同社の車の50%をサブスクリプションで提供し500万人以上の顧客を自社でダイレクトに保有するという、思い切ったビジョンを発表している。経営コンサルタントの大前研一氏はモノが売れない「低欲望社会」で企業が生き残るためには「サブスク・シフト」を加速させなければならないと指摘している。MaaSやCASEなど自動車市場で起こっている根本的な変化をにらんで、ボルボはプロダクト売り切り型の古いビジネスモデルからの脱却を「サブスク・シフト」によって鮮明にしたといえる。
サブスクリプションを本格的に導入すると価格モデルの変更によって当初は売上が減り収益が悪化する事態も生じる。すぐに成果を出そうと焦らずに組織体制、業務プロセス、スキル、評価制度などを見直し、トップ自身がリーダーシップを発揮してサブスク・シフトに見合った土台作りに投資すべきだ。
逆に、しがらみのないスタートアップは、コト化やサービス化が遅れている既存市場を見つけてユーザー目線のサブスク型ビジネスによって切り崩すチャンスともいえる。サブスク型のビジネスモデルを研究し見込み顧客を惹きつける魅力的な商品・サービスをデザインしたい。
連載:マーケティングとイノベーションの交差点
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