日本人が知らないニッポンのみらい

写真=Toolbox Estonia

ある休日、エストニアの首都タリン。ウレミステ地区までトラムで買い物に行く道すがら、ひょんなことから警察車両に連行されてしまった。

本コラムでは、私が電子国家エストニアで実際に警察に連行された体験をもとに、デジタル化していく次世代社会がどのような課題に直面することになるのかについて考察する。

電子国家がはらむ不都合

タリン市民は市内の公共交通機関を無料で利用することができる。かくいう筆者も2018年から居住許可を受けており、れっきとしたタリン市民としてその恩恵を享受できることになっている。専用のICカードと自分のeIDカードを連携させることで、住民情報レジストリから私がタリン市民であることを識別して無料になる。

ところが今回トラム内で、ICカードの抜き打ちチェックを受けたことをきっかけに、自分がタリン市民として電子ポータルに正式に登録されていなかったことが判明したのだ。

警察車両で取り調べを受けた際、自分がタリン市民であること、交通ICカードとe-IDカードとの連携にも成功している旨を伝えた。しかし警察側の言い分によれば、私はタリンで1回も定住先を登録していないことになっているという。

通常、専用のポータルサイトから住所登録を自分でした後に賃貸物件の大家が電子署名をすることで正しい居住地が登録される。今回の一件は、私自身はポータル上で住所登録を済ませていたが、賃貸物件を貸し出すことで家賃収入が発生することを税務当局に知られたくない大家が規定通りに電子署名をしていなかったことで起こった過誤だった。

さらに警察に事情を詳しく聞くと、「たまにあることですよ。移民として来た場合の住民登録は、賃貸契約書を市役所にもっていって登録するのが確実です」とのこと。

電子行政で名高いエストニアといえど、こういった不便さがすべて解消されているわけではないようだ。

デジタル社会が抱える課題とは

この原体験を通して、エストニアのようなデジタル国家であっても、データを正しく入力するためのインセンティブ設計が行き届いていないことにより、システムが正常に機能しないことが起きうるのだと強く実感した。

とりわけ今回の一件は、タリン市民となってあらゆる公共サービスの恩恵を享受したい私と、税金を余計に徴収されたくない大家という、立場の異なる2人のユーザー間で利害対立が存在したことにより生じた問題だと理解している。

市内公共交通機関が無料になる私は進んで国にデータを提供するが、大家にとっては住所登録情報に電子署名をするメリットが存在しない。つまり大家側に電子ポータルに正しい情報を入力させるためのインセンティブ設計が足りていなかったのだ。罰金こそあるものの、その実効性はあまり高くない。

さらに、私が自分の住所情報を登録し、あとは大家に署名してもらうだけの状態になったとしても、大家のところにプッシュ通知のようなものは来ない。大家は自分でポータルを開かない限り、電子署名を求められていることにすら気づかないのだ。

文=日下 光 構成=細井 響 写真=Toolbox Estonia

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