長らく慶應義塾大学で起業家の育成に携わってきた國領教授に、教育の現場から見た起業家としての心構えや、日本のベンチャーが世界で戦い抜いていくための秘訣についてドリームインキュベータの小縣拓馬が聞いた。(全6話)※本記事は2017年8月に実施したインタビュー内容を基に作成しております。
起業前に身につけるべき最低限のスキル
──今「起業ブーム」のようなものが、また新たに来ているように思います。起業するうえで最低限備えておくべき知識はありますでしょうか?
ネットバブルの時代は大変だったというお話をしましたが、その反面教師として、最低限のルール・知識は持っておいた方がよいですよね。
例えばバランスシート(B/Sと表記)。
ここでは難しい会計学を理解しろというわけではなくて、「人様のお金」と「自分のお金」が区別できないような段階で経営はしちゃ駄目ですよねということが言いたい(笑)。
B/SにはDebt(負債)があって、Equity(株主資本)があるじゃないですか。DebtとEquityの違いが分からない人は、まだ会社をやっちゃいけないですよね。
人からお金を集めて会社を興す以上、せめて「人のお金と自分のお金は違うんだ」ということは分かっておいて欲しいんです。おそらく、学校の先生にできるのはそういう知識を教えることなんですよね。いざ会社を経営し出した時に必要となる最低限のスキルを授ける、というイメージでしょうか。
但し、学校でそういう知識を教えたところで、アントレプレナー・起業家が生まれるわけではありません。
意識面、ベンチャースピリットのようなものは、先生がいくら教えても身につくものではありません。ですから、意識面に関しては実際に起業して大成功した人や大失敗した人を大学に連れてきて話をしてもらうようにしています。大学という教育機関だからこそ、フラットに協力してくださる方も多い。
意識面では大学外の人の力を借りながらインスパイアさせてもらって、会計や知的財産といった起業家として最低レベルの知識を大学が教えるようにしています。
起業をするタイミングの見極めポイントは「人脈」
──最近でいうと、資金調達ブームみたいな動きがありますよね。「10億円調達しました!」というニュースもよく見かけるようになりました。そういった流れの中で、先ほどおっしゃった「人様のお金」という知識や意識が重要になってくると感じます。
これも20年前のネットバブルの頃に痛感しましたが、お金が余っている時期って、売上がほぼ無いようなベンチャー企業でもすごい高い時価総額がついて、多額の出資を集めることができちゃうんですよね。
こういうときに何が起こるかというと、例えばドンと2億円出資してもらって、合わせて借入もして、お金持ちになった気になって贅沢し始めて、何だかんだやっているうちにどんどんお金が減っていって……お金を使い切った頃にバブルが弾けて、借金が払えなくなっちゃった。なんていう現象を山のように見てきました。
なので、人様と自分のお金をしっかり区別して、人様のお金で決して調子にのらないこと。これは特に最近のように資金調達市場が盛り上がっている時期にはよりいっそう求められる意識だと思います。