──それは「学生起業家がぶつかる壁」といったところにもつながっていくのかなと思うのですが、先生から見て、学生起業家のみなさんがぶつかる代表的な壁にはどのようなものがありますか?
5万人くらいが加入しているサービスを誕生させて、出資を2000万円くらい受けて、そんな中途半端に成功したタイミングに、Googleなどの大手企業からオファーが来て就職するか自分のビジネスを続けるかで葛藤する……というケースは学生起業家特有の壁としてよくありますね。
このビジネスでそのまま大成功できるとは思えないけど、義理のある人から出資してもらってるから「会社を畳んで就職します」とはとても言えない、みたいな。
そんなときには、私は教育者の立場から、「これを糧として一回大組織で働いて学んでみて、またやり直してもいいんだよ」と言ってあげるんですけれど、義理堅い学生に限って深刻に悩みますね。
──20年前の、ベンチャーが未成熟な頃に比べて学生の傾向は変わってきたりしていますか?
40代前半の起業家の層がすごく厚くなってきたので、起業家に対する理解も進んできましたね。20年前は社会全体として「起業」というものがわかっていませんでした。その時代に比べると、起業とはこういうものであるという共通認識が学生の間にも浸透しているように思います。
──たしかに、今は学生にとっても「起業」が普通の選択肢になっていますよね。
ようやく起業がだいぶ自然な選択肢になってきましたよね。ただ海外と比べるとまだまだだとは思いますけれど。
SFCですら、画一的な就職活動で企業の内定を取ろうと躍起になっている学生が8割9割じゃないですかね。そうじゃないことを考えている人が1割くらいいると、凄く目立つレベルですよね。日本は。
とはいえ、生徒には誰でも起業すべきというようなことは決して言っていません。
先ほどでもお話ししたように、起業は情熱やスキルに加えて人脈・ネットワークがモノをいう世界です。そういう意味では学生の同級生間とかで集まってやるのが必ずしも正解ではなく、数年大組織で経験や人脈を獲得したうえで、タイミングが来たらやるという意識でいいんだよと伝えるようにしています。
そのタイミングが来た時に、困らないだけのスキルは学校で提供しておいてあげたい。そういった想いで日々生徒に接しています。