ところで、これまでこうした一連のコミュニケーションを取ってこなかった身としては、あるきっかけが必要だろう。
「夜のひとときに、スウェーデンの習慣“フィーカ”を取り入れることをおすすめします」と久山氏。
フィーカは「コーヒーブレイク」を意味する語で、諸説あるがスウェーデン語の「kaffe」(コーヒー)を逆から読むことで生まれたとも言われている。スウェーデンの会社では、毎日14時や15時になるとどんなに忙しくても、みんなでなんとなく集まってお茶を飲みながら15分くらいおしゃべりをする習慣がある。「お十時」「お三時」にお茶をする日本の習慣にもどこか似ている。
そのほか、久山氏の勤める学校では、月曜の朝のミーティングは朝食を兼ねたフィーカが行なわれるそうだ。その日の当番がパンに載せる野菜やハムなどちょっとした具を用意して、みんなで食べながらざっくばらんに話し合う。こうした何気ないコミュニケーションが同僚との信頼関係を深めるのに一役買うだろう。
一日の終わりに、家族で集まって、静かなひとときを共有する「夜フィーカ」は各家庭でも一般的に行われていることだ。特別なことは何もいらない。15分程度、お茶を飲みながら他愛のないことを話すだけ。
たとえば、「中二病」のお年頃の娘に突然「夜お茶しないか?」と言ってスルーされたとしても、最初からめげるべからず。おいしそうなお菓子を買い、わざと子ども部屋に聞こえるように、夫婦で「おいしいなあ」と食べてみるなど、多少の工夫は必要だ。もちろん思春期前にはじめられたらより効果的であることは言うまでもない。この習慣が、いくつになってもゆるがない父子関係へとつながっていくのなら、こんなにいいことはないだろう。
まずは今晩、「夜フィーカ」はじめてみては?
久山葉子◎スウェーデン在住の書籍翻訳者。スウェーデン大使館商務部勤務を経て、2010年より、理想の子育てを求めて家族でスウェーデンに移住。 北欧文学の翻訳を手がけるほか、ライター、コーディネーターとして活躍。日本語教師として、現地の高校の教壇にも立つ。著書に『スウェーデンの保育園に待機児童はいない』(東京創元社)