たった15分。1日の終わりの「雑談」が親子を変える

久山葉子氏


自分のかなわなかった夢を子に託したり、「この大学に行き、この職業に就かせる」と親が引いたレールの上に子どもを乗せたりすることはしない。同じ親の子どもでも、ひとりは大学院を出てエンジニアに、もうひとりはトラック運転手というケースもざらである。進路に関しては、親が口をはさむことではないのである。

ちなみに、スウェーデンの大学は医学部も無料。医者を志したいなら、誰にでもなれるチャンスはある。経済的な問題で断念せざるを得ない、ということがない。そういう意味では、非常にフェアで、真の意味での「職業選択の自由」があるのかもしれない。


久山氏の長女、ゆいこさん。自宅裏で。「宿題のない」長い夏休みを謳歌する。

スウェーデンに住みはじめた当初、久山氏は「娘は日本人なのだから、日本語は忘れないようキープさせないと」と、毎日同じ時間に机にむかって日本の教材をやらせたり、あれこれ手をつくしたという。けれど、久山氏の意に反して、娘は日本語の勉強に拒否反応を示し、ケンカケンカの毎日。代わりに英語に興味を持ちはじめ、ひとりでユーチューブなどを繰り返し観ながら、自然と英語を吸収していったという。

「今では家での娘と夫との会話はほとんど英語です。また、『fun fiction』(二次創作)というジャンルの小説を英語で書いてネットで投稿をし、どうやら固定のファンもついているようです。娘の作品を見たことがあるのですが、私ではとても書けないようなネイティブの文章をつづっていて、親が言うのも何ですがとてもうまいんですね。それを見て、ああ、親は子どもの使う言語すら選べないんだな、としみじみ感じました。ましてや職業や進路など決められるわけもないですね」

そこではじめて、久山氏は「スウェーデン式」の子育ての意味が理解できた。子どもの人生は子どものもの。進路や将来は子どもが選択するものなのだ。とは言っても、手放しに「さあ、自分の好きなようにしなさい。お母さんたちはもう知りませんよ」とは言えない。ではどうするか? 

親は、教えられる限りの情報を子どもに伝える

「娘は英語が好き、そして書くのが好きです。ですから、それにまつわるネタをできるだけ提供できるようにしています。たとえば、私が書籍関連の仕事をしていて業界のことも少しは知っているので、娘には『何かあればいつでも紹介してあげられるわよ』と折に触れ伝えています。もちろん、娘自身が何かやってみたいと思うのであればであって、親がこうしなさい、ああしなさいと言うつもりはありません」
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文=柴田恵理 編集=石井節子

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