ビジネス

2019.08.09

世界最大の精子バンク「クリオス」 100カ国提供までの成功の軌跡

クリオスのサポートで妊娠した女性(Cryos)

「1981年のある日、奇妙な夢を見たんだ。どういうわけかその夢を見てから、精子にのめり込んだんだ」

世界最大の精子バンクであるクリオスの創業者、オーレ・スコウはそう語った。彼のスーツの襟には、精子の形をしたブローチがつけられていた。100カ国以上の人たちに精子や卵子を届けるクリオスは、これまでに数万人もの出産をサポートしてきた。

その特異な一大ビジネスを築き上げたスコウに、彼のビジネスが成功した理由を聞いた。

27歳の時に見た夢から全てが変わった

1981年、スコウは大学院でビジネスを学ぶ普通の学生だった。今でも思い出せるという奇妙な夢を見た日から、彼は「精子」の虜になった。夢には凍結された精子の絵が出てきたのだという。

当時、彼はその夢を思い出しながら、図書館に通って「精子」にまつわる本を全て読み込んだ。精子の妊孕性(にんようせい)や不妊治療、低温生物学など、当時は恥ずかしくて誰にも言えず、昼はビジネスを学びながら、夜は「精子」の勉強に没頭する生活を続けた。

最初につくった精子に関してのビジネスプランは400ページにも及んだ。専門家の医者にそのビジネスプラン持って行くと、あまりにもスコウが精子に精通していたため、驚かれた。

そのとき彼が考えたドナー精子提供のビジネスはすぐには始められなかったが、幸運なことにデンマークで初めて開業した私立病院がドナー精子を必要としており、提供を行うようになったのだ。

病院はドナーを募る場所として運営しているのではなく、治療するためにあるものである。病院はドナー候補者にマーケティングする能力がないため、数が集まらなかった。

そこで、スコウは、30歳になる前にはじめて自分で集めたドナー精子をこの病院で使ってもらえないかと尋ね、実際にそれを提供すると、すぐ妊娠に繋がった。それを繰り返すうち、他の病院からも依頼が来るようになった。するとデンマーク国内だけだったものが、たちまち海外へも広まっていった。今は100カ国以上へ提供している。


凍結された精子が梱包される様子(Cryos)

精子の価格は、ドナー情報がどれだけ開示されているかによって変動する。また、精子の運動率によっても価格が変わる。ただし提供者の外見や経歴で値段が変わる料金設定はしていない。消費者は、だいたい50〜1500ユーロの中から選ぶようになっている。

クリオスでは、凍結した精子を使用しているが、運動率が高く質の良いものを選んでいるため、人工授精に使用した場合の1回あたり妊娠率は30%を超えていると言われている。
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文=井土亜梨沙

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