そしてもう一人、父親となったことが話題となったのが、4月28日、29日に日本最大のLGBTプライドパレード「東京レインボープライド2019」を開催するNPO法人東京レインボープライドの共同代表理事・杉山文野だ。
女性から男性に性を移行したトランスジェンダーの杉山は、今年1月に女性のパートナーが男性同性愛者(ゲイ)の友人からの精子提供を受けて、子を授かった。
新たな家族のあり方を模索する2人による対談連載後編。彼らは子育てを通じて気づいたこと、そして子どもと接するときに大切にしていることとは。
生活の中心が、自分ではなくなった
杉山:ぺこさんもりゅうちぇるさんも、とても忙しいとは思います。子育ての役割分担はどのようにされているのでしょう?
りゅうちぇる:あまりカッチリ決めず、家にいる人がやることにしています。僕が帰るタイミングがわかったら、早めにぺこりんに連絡をしてお風呂や食事の準備を引き受けます。逆に一日中仕事で家に帰れない時は、彼女にお願いしています。
杉山:僕は外にいることが多いので、お風呂だけはなるべく毎日僕が入れるようにしています。あとは細かな分担はしていませんね。子どもができて、行動や考え方に大きな変化はありましたか?
りゅうちぇる:変わりっぱなしです(笑)。例えば些細なことかもしれませんが、いままで僕の手帳で一番豪華だったのは、僕の誕生日のページだったんです。9月29日の日付に、たくさんシールを貼って、ペンで色々描いて……。
でも、いまではそれが息子の誕生日に変わりました。リンクの服を買って、リンクのために役所や病院に行く。生活の中心が自分ではなく、リンクになったんです。
杉山:僕のパートナーも、同じことを言っていました。
りゅうちぇる:リンクは最近、掴み立ちでちょっとずつ歩けるようになりました。なので「加湿器には近寄っちゃダメだよ」と注意すると、どうやら自分は怒られているのだと理解できるようになってきたみたいなんです。毎日いろんな発見があります。
また、息子のおかげでほかのママさんやパパさんとも「いま何カ月ですか?」とコミュニケーションがとれるようになった。初めは、「リンクにこういうことを教えてあげなきゃ」と身構えていましたが、むしろ彼にたくさんのことを教えてもらっています。いま、人生でいちばん幸せです。
杉山:子どもと過ごしていると、世界の見え方がガラッと変わりますよね。ベビーカーでの移動が大変なのは情報としては知っていましたが実際体験してみると思っていた以上に大変でした。馴染みの場所にもたくさん段差があることに初めて気づきました。
そうやって、少しずつ親として欠かせないものを学んでいくのかもしれませんね。先日、パートナーと「親になったから子どもが産まれるのではなく、子どもと過ごすことで少しずつ親になっていくんだね」と話していました。
これまでの人生で、自分が親になることなんて考えてもみませんでした。僕はいまでも法律上は女性で、その意味では今のパートナーとは夫婦関係にありません。だから、僕らを親にしてくれた、多くの方々には本当に感謝しています。
もちろん、結婚して子どもを持たなければ幸せになれない、とは思いません。ですが、LGBTであるという理由だけでこんなに素晴らしい人生の機会を最初から諦めてしまっている、いや、社会から諦めさせられてしまっているこの現状はあまりにももったいないと感じるようになりました。