事件や事故は、テレビの定時ニュースや新聞の朝刊よりも素早くインターネット上で共有、拡散される。中には、ニュースフィードに流れてきた記事のタイトルだけを見て、本文を読まずリツイートやシェアをする人もいるだろう。ネット上には、自分に最適化された記事が並び、人々は自分の興味のある話題だけを追う。
ネットの登場で、私たちはより多くの知識・見聞を得るようになると期待されたのに、実際のところは広く浅く情報に触れるようになっただけで、かえって深い見識を得ることが減ってしまったのかもしれない。
例えば、検索窓に「ブレグジットとは」と入力する。すると検索候補として「ブレグジットとは 簡単に」と表示される。複雑な背景の解説よりも、すぐに答えを示してくれるコンテンツが求められているのだ。
検索結果の最上位に表示されることや、ソーシャル上での拡散を第一に考えるメディアの登場は、事実確認が不十分なまとめ記事や、特定の個人や集団を中傷するような内容でアクセスを稼ごうとするコンテンツなど、恣意的な編集記事の増加を招いた。
その結果、ネット上では複雑なトピックや読むのに時間がかかるコンテンツは敬遠され、素早く簡単に理解できるものが幅を利かせている。
だがこうした状況に待ったをかけるムーブメントが、欧米を中心に広がっている。
速報の最後尾
2016年、イギリスの編集者らで作る「ブリティッシュ・ソサエティー・アワード」で、ジャーナリズム誌「ディレイド・グラティフィケーション(Delayed Gratification/DG)」の創業者2人が、ベストエディター賞(the prize for best editors of an independent publication)を受賞した。速報主体の既存の報道に対し、時間をかけてファクトチェックをしてニュースを掘り下げる「スロージャーナリズム」を掲げる紙雑誌だ。
スロージャーナリズムは、日本では一般的に「調査報道」と同義で捉えられることが多く、速報ニュースの対となる報道を指す。
創刊は2010年。一冊120ページの紙の雑誌で、世界各地のジャーナリストたちが各地の紛争や政治事案、自然環境問題などを取材し、記事や写真、インフォグラフィックスで報じている。季刊発行で、最新号は2018年冬発売の第33号。定期購読者は6500人で、ニューススタンドに3500部を販売している。ウェブサイトやSNSアカウントも持つが、頻繁に更新はされていない。
DGでは記事一本の取材に約3カ月かけ、記事はどれも8000~1万字というボリューム。定期購読料は36ポンド(約5000円)で、1冊単位では10ポンド(約1400円。購読者の居住国によって異なる)。