ビジネス

2019.06.02 12:00

あえて紙媒体で勝負する、英国スロージャーナリズム誌の挑戦


確かにDGのウェブサイトには、記事がいくつか公開されている。やはりネット上でのマネタイズも必要なのかと思ってしまうが、ウェッブに言わせると「ネット上での」マネタイズではなく、「ネットを活用した」マネタイズだそう。「目的としては、僕らのコミュニティに参加してもらい、イベントにも出てもらってマガジンを購読してもらう。ネット上で記事を読む人もいるけど、本当は紙で読んでほしい」と、あくまで目的はマガジン購読者を増やすことだと力を込める。

SNSなどを強く活用しているわけではないので読者からの声は聞こえづらそうだが、そうしたフィードバックはメールや手紙で得ているそう。

「SNSでのコメントは、マガジンに対してではなく、自分のフォロワーや大衆に向けたものが多いですから」

インフォグラフィックスも収益源

DGの特徴は、重厚な長文ルポだけではない。多種多様なデータを整理し、独特の切り口で見せるインフォグラフィックスも個性的だ。

例えば、イギリスのサッカープレミアリーグの監督が解雇されるペースと、トランプ政権から幹部が辞めるペースを比較したものや、新聞・雑誌で有名人のゴシップ紙面を作るのに何本の木が伐採されているかを調査したものなど、話のネタになりそうなものが多い。事件や事故の発生から3カ月が経つと、発生直後には公開されていないような詳細なデータが利用可能になることをうまく利用している。まさに「スロー」な報道がなせる技だ。


新聞・雑誌で有名人のゴシップ紙面を作るのに何本の木が伐採されているかを調査したインフォグラフィックス(Christian Tate/Delayed Gratification)

「読者に少しでも興味を持ってもらいたいし、美しいマガジンにしたい。インフォグラフィックスを使えば、複雑なストーリーをうまく伝えることができます」

彼らは、企業からインフォグラフィックスの制作も請け負っており、重要な収益源だそう。

コンテンツを得たくて金を払うのではない

速報を補完する仕組みとして、日本やアメリカの新聞・雑誌の間で広がりを見せているのが、「ペイウォール(pay-wall)」システムだ。契約後の一定期間は無料で有料記事を閲覧できるが、その期間が終わると有料になるもので、これはApple MusicやDAZNなどの音楽・動画メディアでも採用されている。
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文=鷲見洋之

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