ビジネス

2019.06.02 12:00

あえて紙媒体で勝負する、英国スロージャーナリズム誌の挑戦


DGの創刊から3年後には、オランダでもスロージャーナリズムを掲げるオンラインメディア「ディ・コレスポンデント(De Correspondent)」がローンチした。彼らは速報(breaking news)に対し、「速くないニュース(unbreaking news)」への投資を公言し、創刊に向けて行ったクラウドファンディングでは、170万ドル(約1億9000万円)の資金を確保。

彼らはさらに、2018年にDe Correspondentのアメリカ版「ザ・コレスポンデント(The Correspondent)」をローンチすると発表し、こちらもクラウドファンディングで2700万ドル(約30億2000万円)もの資金を得た。

De Correspondentの成功に対し、ウェッブは「ローンチ前にファンドを募るのは良いアイディア。創刊後に売り込むのは大変でしたから」と苦笑しながら拍手を送る。



ディレイド・グラティフィケーション(Delayed Gratification/DG)」の誌面

変わり始めたニュースの見方

素早く消化されるニュースばかりでなく、緻密な取材に基づく分厚いジャーナリズムも必要だということは、報道に携わる身なら誰しも理解するところだろう。

問題は、コストがかかるジャーナリズムとマネタイズの両立は可能なのかという点。メディア業界の人間なら一度は考えるであろう難題だ。特に業界には、「ジャーナリズムは金稼ぎとは無縁のピュアなものでなければならない」というような暗黙の前提が強く存在している。

DGの収益の柱は購読料で、広告は1ページもない。パトロンがいるわけでもない。ウェッブは「ネットで無料でニュースを見られる時代に、購読料は高い方だと思います」と認めるが、そんな彼らが現在までビジネスを持続させられている理由はなんだろう。

事業を軌道に乗せることができた要因はいくつかある。一つは、タイミングが良かったということだ。ローンチ後にイギリス国内でEU離脱に関する議論が巻き起こり、さらにトランプ政権が発足したことで、「フェイクニュース」の問題が注目を集めるようになった。それによりイギリスにおけるニュースに対する向き合い方が変わり始め、「トランプが嘘の情報をツイートするたびに購読者が増えていった」という。購読者は2016年からの2年間で倍以上に増えた。

ウェッブは、メディアビジネスについて「現代の資本主義の中では、フェイクニュースのように、メディアが金稼ぎ一辺倒になってしまう流れを食い止めるのは難しい」と語る。だがBBCのラジオ番組でDGの活動が取り上げられるなど、人々のニュースに対する捉え方の変化も感じている。

「人々が、センセーショナルでクリック数稼ぎのためのニュースから脱却し、質の高いジャーナリズムを欲するようになり、それは無料では得られないと思い始めたのではないでしょうか」
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文=鷲見洋之

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