「美術史を振り返れば、絵画というのはもともと、注文を受けて描かれるものでした」。エドモンの共同経営者であるセリーヌ・ディナンは言う。「システィーナ礼拝堂の天上画や、モナリザもそうです」
セリーヌが初めてアートの注文製作に触れたのは、2012年、モントリオールで、陶芸家パスカル・ジラルディンの法務アシスタントとして働いた4カ月だった。
「ジラルディンは、注文を受けてすべての作品を作っていました。モントリオールではそれがごく普通のやり方だったんです。フランスではあまりメジャーではありませんでしたが」
その後、中国美術品専門の投資会社「マッツォーパリ・アートファウンド」のアートプロジェクトリーダーを務めたことをきっかけに、セリーヌはアートの領域で仕事をしたいと思うようになる。2017年9月、共通の友人を介してギヨーム・ドルチュと知り合い、2人は意気投合した。ギヨームもまた起業への熱意を抱えていたのだ。
「エドモン」の起業計画を立てている時、2人はある傾向に気がついた。ひとつは美術品をネット上で取引する市場が活況していること。もうひとつが、個々の好みにあわせて商品をカスタマイズする需要が高いことだ。
「自動車業界でいえば、シトロエンのミニやDSモデルが好みに合わせてカスタマイズできるようになっているのと同じです」。
そして2018年11月、ギヨーム・ドルチュと共同で「エドモン」を立ち上げた。店名は、セシルにアートの素晴らしさを教えてくれた祖父の名から取った。
「エドモン」の公式サイト
購入方法は簡単だ。個人、法人に関わらず、カスタマーはまず、「エドモン」に登録があるアーティストのカタログから、好きな作家を選ぶ。登録されているアーティストのジャンルは、「絵画(ファインアート)」「ストリートアート」「デッサン」「漫画」。
好みのアーティストが決まったカスタマーは、どういった作品を描いてほしいかなど細かな希望を伝える。納品期限で合意したところで、契約。支払いが済めば、あとは自宅で、自分のために描かれた、世界で1枚だけの絵が届くのを待つだけだ。
--{オーダーメイド作品をもっと気軽に手に}--
「エドモン」には、才能あるフランス人アーティストのオーダーメイド作品をもっと気軽に手にしてもらおうという目的がある。だからこそ、作家については厳選し、「有象無象にアーティストを抱えることはしない」と決めているという。いったんレベルの低いギャラリーという悪名が流れれば、せっかくの才能を持ったアーティストも埋もれてしまうからだ。
現在のところ契約しているアーティストは20名だが、2月中には10名、6月には50名、年内に最大でも100名ぐらいに増える予定だという。その中には、ディナンがインスタグラムで作品を見つけ、才能を見出したアーティストもいる。
「現代アートの新人アーティストにとってのインスタグラムは、、作品を披露するうってつけの場所のひとつ」なのだ。「エドモン」も、ボザール(フランス国立高等美術学校)にまだ在籍中ながら、インスタグラムの世界で名が売れ始めている新進気鋭のアーティストを起用している。
「エドモン」に登録のある人気アーチスト、Ingrid Maillardとその作品
料金は作品によってさまざまだ。漫画ボートだと150ユーロ(約18600円)から、大きな絵画になれば1万ユーロ(約124万円)になるものもある。
セリーヌは、平均価格を600ユーロ程度にしていきたいという。エドモンは取引の手数料を取るが、そのパーセンテージは「市場の相場以下」とのことだ。
5月にはパリ1区の有名な公開アトリエで、お抱えアーティストのエキスポジションを開催する予定。ギャラリーは、できれば1年以内に持ちたいとのことだ。
さまざまなリテール分野で、eコマースビジネスのリアル店舗進出が注目されている昨今。「エドモン」が、ギャラリーを持つことで現状のデジタルリテールをどうプロモートして行くのか。楽しみなところではある。
(原文)