田中氏は言う。
「子どもにはまちがった答えを出すに至った考えがあり、根拠があるわけです。大人の説明が子どもに伝わらない、そういうときは、子どものまちがいのままに進めてみること。そうすれば、子どもが自分でそのつじつまの合わなさに気づく瞬間が来るんです」
さて、では、冒頭の問題の正解は?
最後に冒頭の問題の答えを田中氏に教えていただこう。
「三角形の面積の求め方は『底辺×高さ÷2』。つまり、順当に考えれば、この問題の正解は『20×12÷2=120』。しかし、これで本当にいいのでしょうか? だって、某有名企業の入社試験ですよ?
ちょっと考えて、この三角形の頂点を動かし、直角二等辺三角形にしてみます。『円に内接する直角三角形の斜辺は、直径になる』という『円周角の定理』を覚えていますか?
この場合、円の直径は『20』なので、半径は『10』。
直角二等辺三角形なので当然、点線部分の長さ(高さ)も『10』。
あれ? 直角二等辺三角形である以上、高さは『10』以上にはなりえないじゃないか!
……と、いうわけで、入社試験の応募者の回答(行動)は以下、3通りに分かれます。
1. 20×12÷2=120 と即答。
2. 企業面接でこんな計算を出すはずがない? と疑い、『その質問の意図は何ですか?』と聞く(合格)。
3. 実はそんな直角三角形は存在しない、と気づいて指摘する(もちろん合格)。
不可能なものに『あれ?おかしいな』を感じる警戒心があると、世の中に転がっている、本当にはありえない、を見抜ける。実は間違いを繰り返している子どもにこそ、こういう『不自然』を見抜くセンスが備わるのではないでしょうか」
田中博史◎筑波大学附属小学校・山口県公立小学校教諭を経て、1991年から筑波大学附属小学校教諭。全国算数授業研究会理事・日本数学教育学会出版部幹事・教科書『小学校算数』(学校図書)監修委員,隔月刊誌『算数授業研究』編集委員、基幹学力研究会代表・算数ICT研究会代表。また「課外授業 ようこそ先輩」を始め、多数のNHK教育番組に出演。『子どもに教えるときにほんとうに大切なこと』『子どもと接するときにほんとうに大切なこと』(ともにキノブックス刊)他著書多数。