そのヒントを探るべく、日本の酒蔵の多様性を引き継ぐことを目的に、事業展開を進める「ナオライ」のメンバーが、これからの社会を創るキーパーソン、「醸し人」に迫る連続インタビュー。
第3回は、インドネシアのバリ島を拠点に次世代の育成支援をする一般社団法人Earth Company(アースカンパニー)代表理事の濱川明日香さんとマネージング・ディレクターの濱川知宏さん。国際支援の道を選んだ二人に、その原体験と今後の展望を聞いた。(前編はこちら)
──夫婦で事業を起こすことは珍しいケースだと思いますが、お二人がそれぞれ国際支援に携わろうと思った原体験はどんなものなのでしょうか。
明日香 : 22歳の時、私は大学卒業のタイミングで太平洋諸国を巡る旅に出たのですが、なかでもサモアという国にとても魅力を感じました。そこで住み込んだのは、電気やガスやインターネットもなく、自給自足で生活する村。物質的にも金銭的にも豊かさはありませんでしたが、そこには日本人が忘れてかけていた精神的豊かさがあり、とても懐かしい気持ちになりました。
サモアに滞在するうちに、気候変動がいかに住民の生活を脅かしているのかを痛感するようになりました。満月や新月の時には、高潮で水位がどんどん上昇してくるのです。高床式の家に住んでいましたが、外を見渡すと、辺り一面に海水が溢れていました。
海水はどこまで上がってくるのだろう。浸水しないのか。どこへ避難すれば安全なのだろう。そんな 「行き場のない恐怖」を経験しました。と同時に、先進国の暮らしが豊かになる一方で、その犠牲となる人たちがいることを目の当たりにして、マシンガンで撃たれたような衝撃を受けました。この時の体験を機に、気候変動を研究する道に進むことを決意しました。
旅から戻り、まずは気候変動を生み出したマインドセットや資本主義のシステムを理解したく、内定をもらっていた外資系のコンサルティング会社に就職しました。そこで3年間勤務した後に、ハワイ大学の大学院に進みました。
知宏 : 僕は、大学在学中に進むべき道に迷い、将来についても漠然とした考えしか持っていませんでした。ただ、メインストリームなことをやらねばならないというプレッシャーもあり、在学中から外資系の金融機関で働き始めました。
高い給料を貰い、六本木の高級マンションに無料で住まわせてもらい、日本とアメリカの往復航空券ももらえるような好待遇。そのままその会社で働き続けることもできましたが、それは自分の進む道ではないと考えていました。
金融機関で働く前に、僕はアフリカやフィジーでインターンシップを経験していて、世界には満たされていないニーズが沢山あることは認識していました。だから、お金持ちをさらにお金持ちにするシステムには、いつも違和感を感じていました。
──お二人ともに、元は資本主義システムのど真ん中に居たというのはとても興味深いですね。
知宏 : いまの事業をやっていくうえで、金融ビジネスの世界に携わったことは貴重な経験となりました。アースカンパニーでは、僕たちが関わるあらゆるものが豊かになる事業を築いていきたいのです。
搾取する人がいれば搾取される人がいる、儲かる人がいれば儲からない人がいるようなシステムは望みません。ゼロサムで成り立つ社会や経済を継続させることに対して、矛盾や限界を感じるのです。
むしろ、頑張れば頑張るほど、社会や環境やすべての人にとってwin-winになるビジネスが、これからは求められるようになるのではないでしょうか。