ビジネス

2019.03.02 11:00

「子供が産めなくなるかも」危機感が自身を変えた。女性のための企業データベースで日本人初優勝、Clarity古谷聡美

Slush Tokyo 2019のピッチコンテストで優勝した「Clarity」の古谷聡美


「子供が産めなくなるかもしれない」初めてワークライフバランスを真剣に考えた
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──Clarityを生み出す上で、苦労したことはありますか。

起業前から分かっていたことなのですが、実は子宮頸がんの「高度異形成」を患いました。起業と並行しての治療、入院、手術が大きな困難でした。20代はがむしゃらに働いて健康や身体のことなど全くケアしていなかったので、30歳を越えてガタが来ました。

投資家やメンバーにできるだけ早期にリスクや状況を伝え、理解、協力してもらえたので、入院中はPCで作業に集中し、デザイナーに病室に来てもらってデザインミーティングをしたりなど事業に特に支障はありませんでしたが、精神的には辛かったです。病気で気持ちが落ち込む時は、悩む暇があったら事業を進めなきゃ、とマインドをスイッチできたので、結果的に乗り越えることができました。
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30歳で起業を決心した時は「35歳までは結婚も出産もしないで事業にコミットする!」と宣言していたのですが、一人の女性として子供が産めなくなるかもしれない、と思ったら、初めて自分のワークライフバランスにについて真剣に考え、今までとは違う働き方を工夫するようになりました。

「起業すると忙しいでしょ? 眠れないでしょ?」とよく聞かれますが、会社員時代よりも多く寝ていますし、健康的な生活サイクルになっています。広告代理店で働いていた時は三食コンビニ食だった日もありましたが、今は朝晩は会食がない限りほとんど自炊し、食のバランスも整えています。

結果、子宮も完全に温存した状態で病気も完治できました。ライフプランも変更し、35歳までには一人産めたらいいな、と思っています。出産や育児がより現実的に、身近に感じられるようになったので、この経験がサービスづくりにも活かされていると思います。

起業もゼロからのプロダクト開発も初めてだったので、メンバー集め、資金繰り、事業計画づくり、サービスづくりを全て並行して進めなければいけなかったのが大変でした。海に飛び込んでから、溺れかけながら泳ぎ方を覚えるような感覚でした。

半年以上メンバー集めに奔走し、去年の8月〜10月ぐらいからいいメンバーが少しずつ集まってきて、年末から加速的に事業やプロダクト開発が進み始めました。ビジョンに深く共感してくれてスキルセットも高く、人柄としても最高のメンバーが集まったことは本当に奇跡でしかないと思っています。人事を尽くして天命を待つ、ならぬ、人事を尽くして人命を待つ、でした。

口コミでは足りない、女性のニーズにフォーカス

──Clarityのアイデアが生まれた経緯を教えてください。

働き方改革や女性活躍推進が社会的に広まり、インターネットには関連の記事やニュースが多く上がるようになりましたが、実態としてはまだ女性だからという理由で昇進しづらい、子育てと両立しにくい、年収が上がりにくい、差別的な発言やハラスメントが日常的に見られるなど課題解決は十分進んでいません。

人事コンサルティングやツールなどのソリューションは増えていますが、そのような解決策はそもそも企業が課題を特定し、理解していないと導入されません。 多くのサービス企業がソリューションの提供にフォーカスしていますが、私たちはニーズにフォーカスしようと思いました。 

働く女性や求職者にとって、どの企業でどのような働き方ができるのかは今までは入社してからでないと分からない、ある意味「賭け」のようなものでした。既存の企業口コミサイトではたくさんの口コミを読むことができますが、特に子育てや女性のキャリアップ支援など女性が知りたい情報が不足していると感じていました。

当初は私たちも女性向けの企業口コミサイトを作ろうと思っていましたが、途中で匿名口コミを書く人は退職者が多かったり、偏りがある場合が多く、信頼性に問題があることに気づきました。目的は企業の働き方についてデータを集めることなので、独自で匿名口コミを集めるよりも企業にアンケートを導入してもらい、確実に現職の社員に回答してもらう方が賢明だと考えました。 



よりサステナブルに働ける職場が探せるプラットフォームへ

働き方の透明性を上げる、という思いでClarityというサービス名をつけました。 

様々なデータを収集・公開することで企業の働き方の透明性を上げることができれば、何が課題なのか社内外の人が理解できるようになり、何かが課題かわかれば解決するためのアクションが取りやすくなります。企業も「流行り」だからといって闇雲に女性活躍推進を進めるのではなく、確実なソリューションを選定できると考えました。

またうまくいっている企業はその成果やバリューを公開することで、採用ブランディングに活かしてもらえると考えました。多くの情報がClarityに掲載されている企業ほど、より透明性の高い企業であり、働きやすく、具体的にどんな働き方ができるのかが分かる企業である、という認知を確立したいと思っています。

Clarityに掲載される情報をどんどん増やし、より自分のライフスタイルに合う、サステナブルに働ける職場が探せるようなプラットフォームとして成長させたいと思っています。
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文=林亜季

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