ビジネス

2019.02.23

空を飛ぶCAたちを二分する、米国航空業界のチップ論争

SeventyFour / shutterstock


もともと、高いプロ意識が求められる職種だったのだが、チップ導入で貶められていると感じるCAも多くいるようだ。そういう人たちは、自分たちの手で「チップなし」を押してから、乗客にタブレットを渡すという。

また、同組合の各社を横断する統括長も、チップには慎重な姿勢で、安全が第一のはずなのに、それがチップを得んがために安全への意識が散漫になったり、あるいは酔客が多額のチップを渡してセクハラ行為に及んだりという懸念まで表明している。

こうなると、新しい制度が導入されたものの、チップをもらうCAがことさらに利欲的に映ってしまうが、彼らの弁明にも合理性がある。つまり、チップをもらうという行為は確かに新しいが、しかしほぼ同じ仕組みが航空業界ではずっと行われてきた、だから胸を張るべきだという主張だ。すなわち何かと言うと、免税品の機内販売とメンバーズクレジットカードのセールスだ。

夕食を出したら、消灯前に免税品を機内で売る。もう50年も続いているサービスだが、これは実は商品が売れればCAのコミッションとなる。さらにメンバーズカードと一体となった提携クレジットカードを売ると、1枚当たり5000円前後のコミッションがポケットに入る仕組みだ。

ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、実はかなりの枚数のクレジットカードが機内で成約されているらしい。さらに、同紙の取材では、故意か過失かはともかく、「今入会すると、50000マイル分のボーナスがつきます!」とか、「特典は今日限りです!」などとあきらかに事実と違う情報を唱えるCAもいて、何がなんでも機内で申し込み用紙を回収しようとする行為が目立つという。

チップは文化なので、その良し悪しに正解はない。今回、正式なチップ制度へと踏み切る前から、乗客によって自発的に差し出されるチップがなかったわけではない。しかし、今日も空の上では、チップを受け取るCAと拒否するCAの間に、微妙な、ときに剣呑な空気が流れている。

チップは会社ではなく、CAのポケットに入るものだが、そもそもそこまでして賃上げを渋るのかと、航空会社に対しては両派から不満が噴出している。でも、ほんとうに困るのは乗客のほうなのだ。

連載 : ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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文=長野慶太

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