現場となったのは、5つ星ホテル「デュシットD2」やオフィスなどが入るウェストランド地区にある施設。筆者は事件発生当時ナイロビに滞在しており、同地区の建物内で爆撃音と銃声をはっきりと耳にし、現場からの黒煙も目撃した。幸い、直接的な影響はなく、冷静に情報収集や対応ができたため、19時間に及んだテロとその対応といったリアルタイムな動きを経験することとなった。
このナイロビ襲撃事件を機に、非常事態時にみる、個人、企業、行政の「賢い」判断やリーダーシップのあり方について考察してみた。
「信頼すべき情報」とは
事件や事故の現場に居合わせることは、幸いにして稀なため、大半のニュースに関して、一般の人がリアルタイムで追うという状況は少ない。しかし、例えば地震を体感したり、自ら異常を確認した場合は、すぐさまネット検索をしたり、テレビを付けたりして情報収集を試みるだろう。
今回、筆者はフェイスブックやツイッター、警察や大使館など行政組織からの発信、BBCアフリカ版のライブアップデート、Citizen TV など現地のニュース番組から情報を収集していた。
爆弾テロと銃撃があったことはすぐに分かり、程なくして、イスラム過激派組織アルシャバブが犯行声明を出したことが判明したが、特にテレビ報道では特に新たな情報がない中、現場のレポーターが必死に何かを伝えようとするといった状況が続いた。政府や警察の対応を評価・批判するような時期尚早なコメントもあった。
一方、ツイッターなどインターネット上では、現場で巻き込まれた被害者や、現場のジャーナリストらによる発信が活発化していた。被害者や遺体の残忍な写真も多く流出していたようだ。米ニューヨーク・タイムズ(NYT)が、あまりにも残忍な遺体の写真を公開したため、主にツイッター上でケニア人からの批判が殺到し、取り下げを求める署名活動も始まった。
事件解決を待たずして、現場の優先事項である人命救助の関係のない議論が、スピード感をもって進んでいくという状況があった。
警察は、犯人に有利な情報を与えることを懸念して、マスメディアなどを通じて、事件現場の写真を投稿しないように呼びかけていた。ケニア政府は、事件発生当日の夜11時頃に警察が現場を制圧し、事件が収束したというような趣旨の声明を発表したが、実際、現場での爆撃と発砲は翌日まで続いた。筆者もその音を確認できた。
ソーシャルメディア、マスメディアなどを通じた政府のプレス発表や報道などを通じて、さまざまな情報が発せられるなか、何を「信頼すべき情報」とすべきか、そしてどう行動すべきかの判断が必要とされた。