「中竹さん、“出世コース”ってどこにあるんですか?」
なるほど、と思った。この問いは、まさに今の企業構造の変化の本質を言い当てている。
出世コースとは、将来の出世につながるキャリアの道のり。ひと昔前ならば、だいたいどの組織にもそのコースが明確に見えていた。組織におけるキャリアとは、社長という頂点に向かう山登りのようなもので、営業部門、開発部門、人事部門など複数の登山コースが麓から頂上まで向かって伸びていた。
新入社員として会社に入ったら、「配属」によってスタート地点で登山コースが決まる。地道にコツコツ成果を上げ、その部門の中で係長、課長、部長……と、同期の仲間たちよりも早く抜擢され、できるだけ早いペースで山の上のほうへ登っていくことが、定型的な「出世コースの歩き方」だった。
その際に“道しるべ”となったのは何か。同じ登山コースの少し先を行く上司だ。
上司が右へ進めば右へ行き、左へ進めば後を追って左に行く。上司を信じて食らいついていけば、「よくついてきたな」と手を差し伸べられ、引き上げられる。その上司のコンパスが正しければ、他の登山コースよりも抜きん出て早く頂上にたどり着くことができた。
しかし、もしも上司が方向音痴で道の選択を誤れば、道づれのように遅れをとるリスクもある。途中、道の選択で意見が分かれたら、「どっちのリーダーについていくべきか」と迷い、その選択次第で会社員人生の明暗が決まることもあった。
つまり、従来でいう「出世」とは「誰かの背中を追うこと」であり、「その誰かを選ぶこと」だったのではないかと思う。上司の成功も失敗も後ろから眺めながら、「誰が偉くなるのか」を見極めるのが出世の第一歩。自分がついていくことを選び、信頼関係を築いてきた上司が昇進すればラッキーであり、将来が約束されたようなものだった。
しかし今、組織のカタチそのものが大きく変容しつつある。長期的成長につながるイノベーションを生むためには、情報や発想がより自由に行き交う「フラットな組織」がいいという考え方が広まっていく中で、ピラミッド型の組織構造は崩れつつある。頂点を目指して歩く山そのものが消えようとしている、大きな転換期だ。
産業自体のマーケットも多様化し、新しい技術がどんどん登場するからライバルは常に入れ替わる。過去の成功パターンは当てはまらず正解が見えない時代に、上司の背中を追うことの利得は薄れている。