ユーザー視点で行政サービスを刷新しようとする、特許庁 (JPO) の初の試み「デザイン経営プロジェクト」だ。
2018年秋に東京都内で開かれた、官庁としては異例の合宿に密着した。従来の縦割りを崩し、部署を横断して編成されたチームが挑んだお題とは。
晩秋のある日、東京都の多摩地域北部・東村山市内の経済産業研修所へ足を運んだ。教室の扉を開けると、壁やホワイトボードの一面にカラフルな付箋やワークシートが貼られ、グループに分かれて私服姿の職員らが賑やかに話し合っていた。
特許庁では2018年夏に、職員約50人でつくる「デザイン経営プロジェクトチーム」が発足した。庁内で希望者を募り、若手の参加も目立った。広報、国内新規顧客開拓、海外新規顧客開拓、UI /UXの分野のチームに分かれて取り組んできたユーザーインタビューから、ユーザーの人物像について合宿のワークショップを通じて深掘りし、潜在的なニーズを見つけ、サービス改善に繋げるのが狙いだ。
リラックスした様子でワークショップに取り組む特許庁職員ら
子供の気持ちになりきる
広報グループは夏休みに行う子供向けのイベント「こども見学デー」を見直すためユーザーインタビューを行ってきた。科学技術館を訪れた親子や発明クラブに通う子とその親などに聞いた話をもとに、ユーザーのタイプを分析し、「人生エンジョイ発明家」と名付けた。
「共感マップ(EMPATHY MAP)」というツールを使って、「考えていること・感じていること(Think & Feel)」「聞いていること(Hear)」「見ていること(See)」「発言・行動(Say & Do)」などを紙に書き出した。ここでユーザーへの理解を深めた上で、取り組むべき課題を導き出し、最後に寸劇でアイデアを発表した。
寸劇はこんなストーリーだった。
「主人公は発明クラブに通う小学三年生の太田少年。たまに観ているYouTuber弁理士の動画で『特許庁のこども見学デーはとってもクール』と紹介され、自由研究にも役立つことを知った。さらに特許庁主催の『発明コンテスト』があることを知り、特許庁の『こども見学デー』に足を運んだ。
特許庁の審査官に発明コンテストの相談ができる『技術相談』のコーナーや、普段できない実験などを存分に楽しみ、オリジナル参加賞や最新機器の廃材のプレゼントをもらい、太田少年は大満足。発明好きな友達に情報を共有し、今度は特許庁職員が派遣される『JPO出張こどもデー』に行こうと誘った」。
「こども見学デー」では、これまでも子供向けプログラミング教室や謎解きラリーなどを企画してきた。ユーザーインタビューを通じて、どんな気づきがあったのか。広報グループの担当者は「子供は大人から何かを提供されるのではなく、自分自身で新しいことを見つけ、育てていきたいというニーズがあることに気づいた。子供達にとって色々なヒントがあり、興味があるところへ突き進んでいく勇気をもらえるような体験を作りたいと考えた」と解説した。