グループごとに話し合いながら付箋を何度も整理し、ユーザー像を考えた
ビッグデータ活用に、マッチングアプリ?
合宿ではデザイン思考のための様々なツールを使っていたが、「アイディエーション(What If...)」に注目した。「もし特許庁がアマゾンだったら」あるいは「グーグルだったら」など20種のカードを使い、思考の枠を広げるというミッションだ。
「そもそもアマゾンって使ったことないんだよな……」と頭を抱える職員もいる中、国内の中小企業を担当するグループは、特許庁職員が企業の経営課題の解決を支援するための訪問型コンサルティングサービスを提案した。
「普段忙しい社長に特許申請のお願いをしても、優先度が低くて手がつけにくい」という気づきから、企業のビッグデータを活用することに着目した。企業の課題を入力すると「アマゾンの商品のように」特許庁に蓄積した課題解決の先行事例や支援策がチェックできるといったものだ。
このほか、知的財産権の専門家とつながる特許庁の「マッチングアプリ」や海外企業と特許審査の面接をテレビ電話などで行うサービスの提案があった。特許庁CDO(チーフデザインオフィサー)の嶋野邦彦特許技監は「従来、職場で聞くのとは違ったアイデアがたくさん出て、興味深かった」と振り返る。
特許や意匠など専門性の高い部署がある中、グループはあえて部署を横断する形で編成した。嶋野は、その意図を「専門性が高ければ効率的だが、バイアスやしがらみが生じます。多様な人材で構成することで柔軟により良い答えを見出すことができる。答えありきではなく、結果は分からないけれどトライしました」と語った。
合宿のコンテンツは、クリエイティブエージェンシー「ロフトワーク」が企画。実際に社員7人が参加し、特許庁職員とともに課題に取り組んだ。官庁のワークショップは、民間企業に比べてどうだったのか。
クリエイティブディレクター原亮介は「ユーザーに共感する上で、官民の大きな違いはありませんでした。ですが所属部門をミックスしたグループ編成は珍しく、部署を超えてユーザーに向き合う意識を共有し、良いチームビルディングができた」と評価する。
合宿後もグループごとに仮説と検証、ユーザーヒアリングを繰り返し、2019年3月に最終報告会を開く。チーム長の木本直美は「成功も失敗も含め、特許庁の課題解決のプロセスを記し、ホームページ上でも公開したい」と話し、予算化や制度改正にもつなげたいという。
ユーザーがどんな価値観で、何を求めているのか。潜在的なニーズを発見し、解決へと導く手法をデザイン思考とすれば、解決策をどう実現するかは経営力が試される。せっかく時代の流れを汲んだサービスのアイデアが出てもたち消えてしまっては意味がない。特許庁が提唱する「デザイン経営」について、自らが道筋を示していくのだろう。