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デンソー 有馬浩二

“100年に一度”と言われるモビリティの大変革の中、自動車部品メーカーのデンソーはどんな未来を描くのか。『未来製作所』プロジェクトを手がけた小説家の田丸雅智が聞いた。


──移動やモビリティーの未来をテーマにした小説集を作れませんか?

デンソーから、小説家である私の元にそんな依頼が舞い込んだのは、2017年の冬のことだ。後に5名の作家が10の物語を執筆し、『未来製作所』というタイトルで刊行されることになるこの本のプロジェクトは、有馬浩二のアイデアからスタートした。

今回、この小説プロジェクト以来久しぶりにデンソーを訪れた私は、初めに有馬に尋ねてみたいことがあった。なぜ、わざわざ自社、延いては業界の未来を小説で描いてほしいと考えるに至ったのか。どういう思いで、本の制作を決めたのか。取材の冒頭で尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「これから確実に変わっていくであろう自動車業界において、このままではいけない、自分たちも変わらなければならないという危機感は社長に就任してからずっと抱き、発信しつづけていました。ですが、社長3年目を迎えたころ、社内から『危機感を持てといわれても、目の前の仕事で忙しい』という本音が聞こえるようになったんです」

このとき有馬は、こう感じたという。ただ社員に「やれ」と命じるだけではなく、「北風と太陽」の「太陽」のように、知恵を絞って社員の気持ちを動かしていかねばならないと。そしてその延長上で何かおもしろいことに挑戦したいと思案する中、自社で本を作ってみるのはどうだろうかと思うようになっていった。

「ただ、本を作るにしても社内の限られた視点だけでなく、開かれた広い視点が必要だろうと考えました。そこで、小説家の方々にデンソーを実際に見ていただいて、感じるままに多様な未来を描いてもらうことに決めたんです」

そうして完成した本を前に有馬は続ける。「大切なのは、書いてもらって終わりではなく、それぞれの社員がこの本を読んで、どう感じるかです。未来のことを考えるヒントにしたり、考えるだけに留まらず、限られた仕事時間の中から未来に向かって何かをする時間を自ら作っていってほしいと願っています」

成長のための「失敗道場」

ここで、デンソーが行っている興味深い取り組みを紹介したい。この『未来製作所』の執筆にあたり、デンソーの工場を取材していたときのことだ。ある建物の一角に、

「失敗道場」というエリアが設けられていることを社員の方から教わった。

この失敗道場にはモノづくりに必要な設備が置かれていて、誰でも作業ができるようになっている。が、ここは単に設備の使い方を練習する場所ではない。なんと、この道場の機械で部品を作ろうとすると、必ず失敗したものができるようになっているのだ。

その目的は、わざと失敗させることで徹底的に考えさせ、思考力を鍛えることにある。道場が設けられた背景には、失敗を恐れる社員が増えていることへの現場の強い危機感があったという。

文=田丸雅智 写真=ヤン・ブース

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