めちゃくちゃなようで活力ある職場
「会社が持続的に成長していくためには、人材育成は欠かせません。そしてそれには『北風』の面だけでなく、イタリアで経験したように『太陽』の面も必要です。昔のデンソーにはそういう環境が自然とあり、どの職場もめちゃくちゃなようで活力がありました。いまの若い人たちにも、『太陽』のようなことをしてあげたいと思っています」
そんな有馬自身は、いったいどんな未来を頭の中に描いているのか─。
「ますますデジタル化が進み、利便性が高まっていくでしょうが、その分、オンオフがはっきりするようになるのではと思っています。たとえば一週間のうち、3日間はデジタルな世界で極めて合理的に働く。4日間はアナログなものの中でリフレッシュする。そんな世界が来るのではないかと考えています」
では、そういう未来に、自動車業界やデンソーは、いったいどうなっていくと考えるのか─。
「車の電動化、自動化が進んでいくのは間違いのないことでしょう。しかし、情報化が進んでも、アナログで文化的な生活は必ず残る。人間が人間らしく生きるとは、そういうことだと思う。内燃機関を必要とする地域もあるし、自分の身体でアナログな車を運転したいという人も必ずいるはずです。時代が変わっても、ある特定の価値観だけで幸せや喜びを提供するような会社にだけはしたくありません」
多様性を大事にし、それぞれの社員が主体性をもって自ら未来を切り開いていく─。
デンソーは、そんな会社なのだと強く感じた。
最後に、有馬を突き動かす原動力は何かと尋ねてみた。
「限られた人生ですから、楽しくやりたいという思いがあります。それも、一人ではなく仲間と一緒に。『情熱と笑顔』という言葉を大切にしているのですが、一歩踏み出せる情熱を持ち、職場のみんなと笑顔でやりたい。私はその気持ちだけで動いているようなものです」
有馬はそう言い、はにかむような笑顔を見せた。その魅力的な笑みから生まれる笑顔の連鎖が、これからの明るい未来を作りあげていってくれるに違いない。
ありま・こうじ◎1958年、愛媛県生まれ。京都大学卒。81年日本電装(現デンソー)に入社。2005年デンソー・マニュファクチュアリング・イタリア社長。08年デンソー常務役員。13年生産革新センター長。14年専務役員を経て、15年より取締役社長。