──「触れる」以外に、可能性のあるコミュニケーションはどのようなものがあるでしょうか。
メッセージを込めるという意味では、「味わう」といった領域においても、まだまだ伝達手段を開拓していけると思っています。
「胃袋を掴む」というのは本当に面白い表現ですよね。相手の身体の中に入って、気持ちを動かすコミュニケーションなんて他にない。
どこで誰と食べるかによって食べ物の味は変化するし、「舌が肥える」という表現があるように子供と大人とでは味覚の解像度が異なる。
人と人が距離を縮めるために「同じ鍋をつつく」ことが効果的であるならば、「味わう」領域にはまだまだ可能性がありそうです。
──「伝える」ということにおいて、和田さんの理想はどんなものですか。
「何を伝えたいか」ということありきで、そこにアダプトするメディウム(媒材)がきちんと用意されているのが理想ですね。
繊細なニュアンスや雰囲気、その瞬間に思ったことなど、伝えたいことは人によっていろいろある。瞬間的なことであれば先ほどの「触れる」が適切なときもあるし、それこそ文字を使ったほうがいい場面もあるはずです。
「伝えたい」気持ちを丁寧に伝えられる世界がいい。
もしかすると、「メディウムがないから伝えられない」どころか、自分が「伝えたいこと」を持っているということにすら気づけていない可能性だってあります。それってすごく勿体ないことじゃないですか。
メディウムが増えていけばいくほど、人はいろんな思いや考えに気づき、伝え合うようになると思います。
それこそSkypeや、TwitterなどのSNSの出現はそう。メディウムが増えたことで、新しい概念を知ったり、コミュニケーション手段として活用するようになったりした人は大勢いる。
メディアがたくさん出てきて、そこから意見を選び取って、集まって、みんなで育てていく。逆にいえば、人が集まらなかったり離れていくことで、コミュニケーションの場やツールとして満足のいく深度にならないこともあります。
──和田さんが考える、これからの未来に必要な「伝える」は、どんなものでしょうか。
これからの時代ポジティブな意味で、メディアが選べることからこそ好きな人だけ過ごすことや、好きなものにだけ触れるということが増えていくと思うんです。そうすると、おのずとその人やものに対する深度が深まりますよね。
趣味がその一つですが、ひとつのことへの理解の深度がどんどん深まっていくと、そこには新しいカルチャーが生まれる。そんなことがこれからの未来、さらにたくさん発生していく。
そうやって生まれたそれぞれの世界と出会う方法を探すことが、これからの時代においてとても重要だと思います。
「伝える」という行為からは、未来の希望しか見えない。
ピジン言語(共通言語をもたない人同士の間で生まれた言語)がクレオール化(ピジン言語が子供たちの世代で言語として発達、統一され、完成された言語になること)していくように、「伝え合いたい」というのは人間の本質的なものであり、それがやりとりの中で自ずと体系だてられていくことも人間の本質だと思います。
伝え合って共有して、そうして社会性をもって人々は世界を広げてきたんですから、「伝える」の未来によって世界がさらにどう広がっていくか考えると、本当にワクワクするんです。
わだ・なつみ◎1993年長野県生まれ。ろう者の両親のもと、手話を第一言語として育つ。慶應義塾大学大学院修了後、現在は視覚身体言語に関わる研究、プロジェクトを進める。Forbes 30 UNDER 30 JAPAN 2018選出。