ビジネス

2018.10.18

「全てをハエに賭けた」日本の企業が挑む世界のタンパク質危機


また、イエバエを維持するだけでも莫大なコストがかかります。買い手がつくまでは僕が自費で負担していたこともあって、ハエのために車を売り、多くの借金を抱えることになりました。

──まさに全てをハエに賭けていますね……。

串間:はい(笑)。すでに人間は、菌類を含めた様々な生物を利用していますが、まだほとんど活用されていないのが昆虫です。生活に身近な昆虫の技術は、せいぜい蚕(シルク)程度ですよね。

先代は、イエバエ技術は人類の財産であり、これを絶やすのは人類に対する罪だとまで言っていました。私の代でこれを絶やすわけにはいきません。

「ゴミ」が私たちの食べ物になる

──では、イエバエ技術について教えてください。

串間:イエバエからは植物用の肥料と動物用の飼料を製造することができます。イエバエの幼虫の排泄物をペレット化したものが肥料に、幼虫を乾燥させたものが動物性タンパク質飼料になります。

この肥料や飼料の効果は、わかりやすくいえば栄養が豊富なこと。例えばイエバエでつくった餌を食べた魚は、通常の餌で育てるより約4割も大きく育ちます。

つまり、餌の量を半分くらいに減らしても、いままでと同じ大きさの食用魚を提供できるわけです。また、最高級飼料よりも魚たちが好んで食べてくれます。肥料には、農作物の収穫量を増やすほか、病原菌を抑制してくれる働きがあります。

──いいことづくめですね。

串間:さらに注目すべきは、「食料残渣(食品製造や外食産業でうまれる余剰物)」と「畜糞(家畜の排泄物)」を処理できることです。

いまは食料残渣の多くが焼却処理されるほか、畜糞は日本だけでも年間8,000万トンが排出されており、現在は広大な土地で2〜3カ月かけて微生物によって分解されています。しかもこの処理でメタンガスなどの有害な発酵ガスが発生します。

ところがイエバエの幼虫は、これらを食べてくれます。彼らは畜糞の窒素分を吸収し、消化酵素がかかった土は肥料に変換し、そのあと土から出た幼虫は乾燥して飼料にします。

つまり、これまで処理にコストがかかっていた廃棄物が原料になるため、お金をもらいながらイエバエを育てることができる。無から有をつくるのではなく、マイナスだったものからプラスを生み出すことができるんです。

これにより、化学物質に頼らなくても、これまで不要とされてきた畜糞で動物や植物を育てることができる。イエバエの技術をうまく利用できれば、完全に自然な食物連鎖での食糧生産も実現するはずです。
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文=野口直希

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