一方、あまり知られていないのは、脳が受けた打撃の影響は、アルコールが体外に排出された後もかなりの長時間にわたって、解消されずに残っているということだ。
英バース大学の研究者らは先ごろ、大量に飲酒した数時間~1日後までの脳への影響について行われた過去の研究結果のメタアナリシスを実施。英依存症学会誌「Addiction(アディクション)」に論文を発表した。
研究チームによると、アルコールの影響による私たちの認知能力(集中力や記憶力)の低下は大半の場合、血中アルコール濃度が測定不能のレベルにまで低下しても、まだ残っているという。
その主な原因は、大量の飲酒によりアルコールに含まれる化学物質が、体や脳に“包囲攻撃”を仕掛けることだ。米疾病対策センター(CDC)の基準では、大量飲酒はおよそ2時間の間に女性が4杯以上、男性が5杯以上を摂取することされている(1杯はビールなら約355ml)。
アルコールは強力な利尿薬であり、摂取すれば体内の水分が多量に失われる。その失われた水分を補うため、臓器は体内にある水分を可能な限り多く取り込もうとする。それでも脳は水分を維持しようとすることから、結果として脳と脊髄を覆う硬膜が収縮してしまうことになる。
体内から水分が失われれば、認知機能の安定に必要なマグネシウム、カリウム、ナトリウム、その他の栄養素も同時に失われる。そして、これらの栄養素は体内からアルコールが排出されればすぐに戻ってくるというものではない。また、収縮した硬膜がすぐに元に戻るわけでもない。エタノール(アルコール)の包囲攻撃からの回復には、時間がかかるのだ。
脳が元の状態に戻るまでには、何時間もかかる。場合によっては、1日以上かかることもある。注意力、記憶力、反応時間、意思決定能力はそれまで、完全には元の状態にならない。メタアナリシスの結果が示すとおり、「飲酒をしても通常通りの行動が取れる」というのは非現実的な考えだ。
論文の最終著者であるバース大学心理学科のサリー・アダムズ博士は、「私たちの研究の結果が示すのは、二日酔いは集中力や記憶力など、運転や仕事といった日常の活動に深刻な影響を及ぼす可能性があるということだ」と話す。
この研究から明らかになったことの中で最も重大なことは、飲みすぎは単純に「良くない」ということだ。理由はいくつもあるが、特に体と頭脳が受ける打撃のためだ。
もう一つは、飲酒は頭痛や吐き気のほかにも、私たちに重大な影響を及ぼすものであり、何の影響も受けないと思うのは愚かだということだ。仕事で失敗をするかもしれない。誰かといても上の空になってしまうかもしれない。私たちの脳は、自分が望むほどうまく機能してくれないかもしれない。
言い換えれば、飲酒は飲んでいる時間だけでなく、アルコールの影響から回復するまでにかかる全ての時間の問題だということだ。