というのも、温暖化により、これまで冷涼な気候でワイン造りに適さなかったイギリス国内で、スパークリングワインの生産が拡大しているのだ。フランスなど主要な産地と比べまだまだ冷害のリスクも高いが、さらなる温暖化を見越してワイン造りに参入する生産者が後を絶たないという。
イギリス最大のワイン生産地は、ロンドン南西部。その地域にある「最も大きなワイナリー」はどのようなワイン造りをし、どのようにリスクヘッジを行なっているのか。生産量が多いだけに、雇用されている人も多く、一度冷害があれば、そのインパクトも大きくなる。その実情を探りに、イギリス最大級のワイナリー「デンビース(Denbies)」を訪ねた。
まるで一日遊べるテーマパーク
ロンドンから車で50分ほどの場所に位置するデンビースは、1984年創設、イギリスワインの先駆けとも言えるワイナリーだ。年間のぶどう生産量は、20万トン〜60万トン。年によって40万トンという差が出たり、生産量が豊作の年の3分の1にまで落ち込んだりするのは、やはり霜害の影響だ。
関連事業を含めると、社員は約100人。この大規模ワイナリーのリスクヘッジの基本は、多角的な経営にある。
デンビースでは、200エーカー以上の広さを誇る畑でぶどうを栽培、ワイン造りを行い、ワイナリー見学の受け入れる。しかし、一般的なワイナリーと異なるのはそれ以外だ。施設内にはビール醸造所、カジュアルなレストランやギフトショップ、野菜などの直売所、観光バスなども停められる巨大な駐車場などもあり、一日遊べるテーマパークのようになっている。
この他にも、ゆっくりできる雰囲気の良いレストランもあり、ブドウ園ツアーを含めたコースディナーを55ポンド(約8000円)で提供。さらにディナーの後はそのまま宿泊できるB&B(ベッドアンドブレックファースト)の宿も併設している。
こうして複数の収入源を持つことによって、ワインだけに頼らずに安定的な収入が見込めるというわけだ。
大規模なワイナリーならではのメリットもある。小規模なワイナリーから買い取ったぶどうでワインの醸造をすることで、設備の稼働率を上げることができる。また、広大な畑での収穫は機械で行って効率化を図り、冷害の際にも、空気をかき混ぜて霜を溶かす送風機を使うなどの対策を行っている。
「ワインづくり単体の収支を見ると赤字だが、イギリスワインにはここにしかない魅力がある」と、コンサルティングを行なっている醸造家のジョン・ウォルンシャックさんは言う。