「マジカルな瞬間でした。移民2世で、家庭では日本語を話しているアジア系アメリカ人の女の子がディベートで優勝できる。両親さえ無理だと思った、誰も成し遂げていないことを成し遂げた。その事実はとても力になりました」
ディベートでの優勝も手伝ってアイビーリーグの一つであるイェール大学に入学することができたミウラ・コーは、学生アシスタントとして、専攻する工学部のオフィスでコピー取りやファイル整理のアルバイトに従事した。そんな時に、冒頭のルー・プラットにキャンパスツアーをするという仕事を任されたのである。それにしても、数いる学生アシスタントの中で、なぜ彼女に白羽の矢が立てられたのか?
コピー取りの仕事が決まった時、彼女は父にこう告げた。「コピー取りの仕事をすることになったよ。ワールドクラスの仕事とは言えないけどね」。
すると父はこう言った。
「コピー取りもワールドクラスの仕事の一つなんだよ。どんな小さな仕事にも全力を尽くすんだ」
父親のそんな言葉を反芻しながら彼女は、コピー機の前に立って考えた。ワールドクラスのコピーっていったい何だろう? 誰よりも迅速に、それがコピーだとわからないほどカラーバランスを考えてクリアにコピーを取ることかしら? 取ったコピーはきちんとホチキスを打ち、手書きではないラベルを貼って整理する。彼女はそんなふうに、ベストを尽くす仕事をした。そんな仕事ぶりが学部長の耳に入り、ルー・プラットのキャンパスツアーを任されたのだ。
リスクよりも“自信”
投資を決める時、彼女は自問するという。果たして、このプロダクトやサービスは世界を変えるようなものなのか? 私はこのスタートアップと“共謀”して、社会をイノベーションへと導くことができるのか?
そして、“共謀”を決めたら後は、ただそのスタートアップを信じ、我が子を育てるような気持ちで成長へと導いていくという。
女性VCは男性VCに比べて、見えていないものが見えていると思うか? そんな質問に対して、ミウラ・コーはこう答える。
「もちろんです。ただ前提として、私は応用数学の博士号を取得した1人の人間として、他の男性VCが見えていない多くのものも見えています」
ルー・プラットとの出会いで、ビジネスの世界を志す決意したミウラ・コーは、大学卒業後、マッキンゼー、チャールズ・リバー・ベンチャーズを経て、スタンフォード大学大学院の博士課程で応用数学を学んだ。テクノロジーのコアといえる応用数学の知識は起業に生かすことができると感じたからだ。
博士課程で学ぶ傍ら、大学でアントレプレナーシップの授業も教えていた彼女は、ゲスト講師として来たマイク・メイプルズと出会う。メイプルズはツイッターやディグなどに投資したことで知られるエンジェル投資家だ。ビジネスのリアルワールドを知るため、メイプルズのオフィスで様々なスタートアップについて学ぶようになったある日、彼から提案された。
「博士課程をドロップアウトして、共同設立者として一緒に仕事をしないか?」。