キャリア・教育

2018.09.04 07:00

「わかったふり」が通用しない AI先生のスパルタ教育

atama plus 稲田大輔

atama plus 稲田大輔

都内にある学習塾「Z会ディアロ新小岩校」。静かな教室の中で、5、6人の生徒がタブレット端末に向かう。三角関数の問題を解いていた女子生徒が答えをタップすると画面に「正解」と表示され、塾講師が近づいてきてハイタッチをした。

生徒が使っているアプリは「atama+(アタマプラス)」。AIを搭載した学習アプリだ。中高生を対象としたサービスで、この4月から大手学習塾を中心に導入が進んでいる。予備校や学校の講師らと提携して各項目5分程度の講義動画を提供。アプリで練習問題を解かせ、生徒が選んだ回答をもとにAIが弱点を分析して反復練習させる。さらに時間を置いて、復習問題を出題して定着を図る仕組みだ。

「高校数学の問題を解くときに、中学校の数学でつまずいたままの項目が足を引っ張ることがある。どこまで遡ればいいのかをAIで分析し、穴を埋められるようにサポートしている」

こう話すのは、atama plusの創業者、稲田大輔だ。稲田いわく、AIと人とでは得意なことが違う。弱点の分析はAIに任せ、塾講師は生徒のモチベーションを高めるためのサポートに注力する。人とAIの役割分担を考えてサービスを設計した。

AIの“アタマ先生”には「わかったふり」が通用しないから、ごまかすことができない。苦手な分野は何度も反復して問題を解かされるし、過去につまずいたところ、忘れているところも程よいタイミングで出題される。扱う問題の難易度は生徒のレベルに合わせてカスタマイズされ、カリキュラムのパターンは「1億の3800乗通り以上」あるというから、究極の個人レッスンだ。

冒頭の塾に通う高校3年生の女子生徒は言う。

「アタマ先生はめっちゃ厳しいんです」

この生徒は反復練習を通して、5割程度しか解けなかったセンター試験の数学1Aの過去問が、2カ月間で7割ほど解けるようになった。

「自分では気づかないようなつまずきを解消できるようになった。問題が解けたときが楽しい」と笑う。

成績を伸ばす「教材・人・場

教室にいた生徒たちは、黙々とタブレットに向かい、休み時間になっても問題を解き続けている。そこで、疑問が湧いた。

「塾の教室でタブレットに向かって学習するなら、自習室で独学できるのではないか。オンラインで提供したらユーザーが増えるのではないか」そう稲田に水を向けると、それは違うと返ってきた。

「通信教育などを使って一人で学習できるのは、ほんの一握りのトップ層。生徒のモチベーションを維持するためには、人の力が必要なのです」

サービス自体は、オンラインでも提供できるはずだ。だが、本当に有効な学習ツールを追求した結果、行き着いたのがAIと人の得意分野を生かした分業だ。この塾では、1クラス5、6人の生徒に対し、一人の塾講師がつく。講師用のタブレットには生徒たちの進捗状況のほか、全国の生徒と比べて平均以上に時間がかかっていないかなど、他者との比較もリアルタイムに表示される。講師はこうした情報を見ながら、必要に応じて生徒に声を掛けて歩く。

「いい教材と、いい人と、いい場がセット。教育改革を起こしたかったら、勉強が苦手な子も含め全員にアプローチしなければ変わりませんから」

今後も稲田は塾への導入を進めていく考えだ。
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文=大木戸 歩 写真=苅部太郎

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