生徒が使っているアプリは「atama+(アタマプラス)」。AIを搭載した学習アプリだ。中高生を対象としたサービスで、この4月から大手学習塾を中心に導入が進んでいる。予備校や学校の講師らと提携して各項目5分程度の講義動画を提供。アプリで練習問題を解かせ、生徒が選んだ回答をもとにAIが弱点を分析して反復練習させる。さらに時間を置いて、復習問題を出題して定着を図る仕組みだ。
「高校数学の問題を解くときに、中学校の数学でつまずいたままの項目が足を引っ張ることがある。どこまで遡ればいいのかをAIで分析し、穴を埋められるようにサポートしている」
こう話すのは、atama plusの創業者、稲田大輔だ。稲田いわく、AIと人とでは得意なことが違う。弱点の分析はAIに任せ、塾講師は生徒のモチベーションを高めるためのサポートに注力する。人とAIの役割分担を考えてサービスを設計した。
AIの“アタマ先生”には「わかったふり」が通用しないから、ごまかすことができない。苦手な分野は何度も反復して問題を解かされるし、過去につまずいたところ、忘れているところも程よいタイミングで出題される。扱う問題の難易度は生徒のレベルに合わせてカスタマイズされ、カリキュラムのパターンは「1億の3800乗通り以上」あるというから、究極の個人レッスンだ。
冒頭の塾に通う高校3年生の女子生徒は言う。
「アタマ先生はめっちゃ厳しいんです」
この生徒は反復練習を通して、5割程度しか解けなかったセンター試験の数学1Aの過去問が、2カ月間で7割ほど解けるようになった。
「自分では気づかないようなつまずきを解消できるようになった。問題が解けたときが楽しい」と笑う。
成績を伸ばす「教材・人・場」
教室にいた生徒たちは、黙々とタブレットに向かい、休み時間になっても問題を解き続けている。そこで、疑問が湧いた。
「塾の教室でタブレットに向かって学習するなら、自習室で独学できるのではないか。オンラインで提供したらユーザーが増えるのではないか」そう稲田に水を向けると、それは違うと返ってきた。
「通信教育などを使って一人で学習できるのは、ほんの一握りのトップ層。生徒のモチベーションを維持するためには、人の力が必要なのです」
サービス自体は、オンラインでも提供できるはずだ。だが、本当に有効な学習ツールを追求した結果、行き着いたのがAIと人の得意分野を生かした分業だ。この塾では、1クラス5、6人の生徒に対し、一人の塾講師がつく。講師用のタブレットには生徒たちの進捗状況のほか、全国の生徒と比べて平均以上に時間がかかっていないかなど、他者との比較もリアルタイムに表示される。講師はこうした情報を見ながら、必要に応じて生徒に声を掛けて歩く。
「いい教材と、いい人と、いい場がセット。教育改革を起こしたかったら、勉強が苦手な子も含め全員にアプローチしなければ変わりませんから」
今後も稲田は塾への導入を進めていく考えだ。