ビジネス

2018.08.07 11:00

JPモルガンはなぜ、破滅都市デトロイトに1億ドル投資したのか?


15年12月、ダウンタウンに誕生したワイン販売店、ハウス・オブ・ピュア・ビン。奥行きのある店内には、自慢のミシガン産ワインなど、1300種類の国内外ワインとシャンパンが並ぶ。開店祝いには、ダイモンCEOや市長も駆けつけた。

共同経営者兼マネージングパートナーのレジナ・ゲーンズは15年春、EOCから14万ドル超の融資を受け、同年12月、起業。14年の春、ダウンタウンを歩いていたとき、人の往来などから再開発の兆しを感じ、「自分もムーブメントに加わりたいと思った」と話す。

カンファレンスのマーケティングなど、企業向けコミュニケーションサービスのスタートアップ、ポーター・メディア・グループの社長、ケン・ポーター(34)は、16年12月にEOCから融資を受け、事業を拡大。デトロイトを引っ張れるのは起業家だと信じて疑わない。「市民のポジティブな姿勢が、さらなる成功のカギだ。デトロイトは確実に変わっている」

JPモルガンは、スキルアップ研修などにも資金を拠出しているが、デトロイト市・労働力開発部門エグゼクティブディレクターのジェフ・ドノフリオによると、フォードやGMの幹部など、40人から成る市の労働力開発委員会でも、主要な役割を果たしているという。


5月9日、「ハウス・オブ・ピュア・ビン」で開かれたサービス・コープスのイベント。シャー(中央)、同店共同経営者のゲーンズ(中央後方)。

デトロイト市民の半数は雇用されておらず(15年時点)、市民のスキルアップが大きな課題だが、JPモルガンのチームとは、「互いの話に耳を傾け、共に前進している」(ドノフリオ)。

かつて米経済のエンジン役を果たしながら、失速し、長いアイドリング時代から抜け出せなかった「モーターシティー」─。

だが、今、デトロイトは、人種やジェンダー、地域のダイバーシティ(多様性)とインクルージョンをカギに、21世紀の新デトロイトを目指し、走り出した。合言葉は、「One City. For All of Us.」。全市民のための「1つのデトロイト」(ダガン市長)だ。


ピーター・L・シャー◎JPモルガン・チェース銀行の中部大西洋地域担当会長兼企業責任担当グローバル統括責任者。2008年、同行入社。11年、企業責任担当グローバル統括責任者に就任。デトロイト投資プロジェクトの陣頭指揮を執る。17年、米誌フォーチュン「世界を変える(企業)リスト」の1位に同行が選ばれる。通商問題などを専門とする弁護士でもあり、クリントン政権下で、米特別貿易使節として、中国や日本との交渉に当たった。

文=肥田美佐子 写真=デイビット・レウィンスキー

この記事は 「Forbes JAPAN 「全員幸せ」イノベーション」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事