「共に前進している」
世界中から集まったJPモルガンの社員がデトロイトのNPOで3週間、無償で働く「デトロイト・サービス・コープス」制度も、復興支援プロジェクトの目玉だ。シャーいわく、各人が専門性を生かし、復興に貢献する同制度は、「非常に優れたリーダーシップ開発プログラム」だ。
5月初めにデトロイト入りした江幡信子も、その一人だ。東京支店のトレジャリー・サービス本部・プロダクト・マネジメント部でエグゼクティブディレクターを務める江幡は、英米などから集まった15人の社員とともに研修に参加。JPモルガンが財政支援を行うNPO、サウスウエスト・デトロイト・ビジネスアソシエーション(SDBA)に派遣された。
主な任務は、個人事業主が所有するビルの未活用部分再開発を推進する資料作りで、事業主との面談にも同席した。江幡は、NPO職員のエネルギーに刺激され、「自分も向上しなければいけない」と感じたという。
一方、SDBAのバイスプレジデント、テレサ・ゼイジャックは、人的投資も行うJPモルガンの復興支援を、「他行や他企業への模範になる」と評価する。
JPモルガンが250万ドル、WK・ケロッグ財団が300万ドルを投資し、15年11月に設立されたEOC(有色人種起業家)ファンドも、「インクルージョン」(包摂)がカギだ。銀行から融資を受けられない起業家にチャンスを与え、成長を支援する。
これまで、68社に総額約530万ドルを貸し付けた。56%が女性起業家だ。「成果に満足している」(ウォーターズ)。シャーによると、デトロイトでの小企業の成長率は米国の大半の都市を上回っているという。
また、シャーにとって、スキルアップ支援で出会う若者の多くが希望に燃えていることも、うれしい驚きだったという。「『自分たちにもチャンスがある。この街には未来がある』と信じる若者と一緒にいるときが、一番幸せだ」(シャー)
JPモルガンの支援を受け、早期から再開発が行われてきた3地域の一つ、ウエストビレッジ。そのアグネス通りにあるベジタリアンレストラン、デトロイト・ビーガン・ソウルは、クリントン元大統領など、著名人も訪れる有名店だ。
隣にはカフェ、数件先にはオープンエアのレストラン。ニューヨーク・マンハッタン南部の人気地区、ウエストビレッジをほうふつさせる一角だ。13年春にオープンした同店は、EOCから6万ドルの融資を受け、昨夏、市内に2店舗目を開いた。夕方にもなると、小さな店内は満席だ。
共同経営者兼総支配人のカースティン・アーサリー(39)は、早くも3店舗目を考慮中だ。「ミシガン州に一大ビーガン・パワーハウス(王国)を築きたい」と、彼女は夢を膨らませる。