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2018.07.02 10:00

ファッションの役割を拡張する「見えないを見る」服とは?

(左から)ダイアログ・イン・ザ・ダーク アテンド 檜山晃、アンリアレイジ 森永邦彦、インタープリター 和田夏実

(左から)ダイアログ・イン・ザ・ダーク アテンド 檜山晃、アンリアレイジ 森永邦彦、インタープリター 和田夏実

見る、さわる、聴く──。人は五感を通してさまざまな情報を得ながら、日々生活している。その情報の80パーセントを占めるのが「視覚」と言われており、それゆえ現在の社会構造は視覚に強く依存して成立している。

そんな我々の「当たり前」を超えるシックス・センス(第六感)として機能するのが、新たに発足したプロジェクト「echo(エコー)」だ。


echo wear

echoとは、センサー内臓式のベストで、自分の周囲360度の半径数メートルを感知し、センサーの範囲内に障害物があると振動によってその位置を知らせてくれる衣服のこと。

2016年、ライゾマティクスの真鍋大度と石橋素、ダイアログ・イン・ザ・ダークの檜山晃が空間認識について語り合ったことから始動したechoは、「見えない人は世界をどう認識しているのか」という問いをもとに、これまでの知覚方法をアップデートする「新しい知覚」を探るプロジェクトである。


インタープリター 和田夏実

このプロジェクト発足の経緯を、インタープリターとしてプロジェクト内のファシリテーションを担当する和田夏実は「最初は議論がカオスすぎて、どうしたらいいか分からなかったです」と苦笑いで振り返る。

「最初の打ち合わせは、ダイアログ・イン・ザ・ダークの暗闇の中で行いました。その時は何をするかも決まっていなかったので、とりとめもない話をしたり、暗闇の中でキャッチボールをしたり。そんな中で、檜山さんのお話がヒントになったんです。目が見えない檜山さんにとって、洋服とはどういうものか、という話でした」(和田)

檜山は生まれつき目が見えない、先天性の視覚障がいを持つ。いま檜山は「純度100パーセントの暗闇の中での対話」を体験できるエンターテイメント ダイアログ・イン・ザ・ダークでアテンド(案内役)を務めながら、視覚のない世界を言語化し世の中へ広めている。

檜山は自身の服選びについて「服の色、柄、特徴を購入する時に聞いて、全て記憶しておきます。このつるっとした手触りはストライプのシャツ、このやわらかい手触りは白いTシャツ、といった具合に。記憶を元にその日着る服をどう組み合わせるか考えます。」と話す。

さらに、全ての服を触覚で記憶するだけでなく、その日の天候や気温の変化を視覚以外の感覚で感じ、天気予報を聞かずともおおよそ予測できるため「服選びで失敗したことはない」というから驚きだ。先述のとおり、人が得ている情報の80%は視覚からといわれている中で、檜山は、視覚以外の感覚器から受け取る情報の量を意図的に増やしている。

「毎日電車に乗っている人でも、上りと下りで、男性と女性の声が有意に分けられていることを知っている人は少ないと思います。視覚がある人にとっては当たり前すぎて気付くことさえない音・匂い・感触など、自分が存在する空間にある情報を、意味のあるものとして受け取ることができるかどうか。それこそが、私にとって重要なポイントなんです。」(檜山)


ダイアログ・イン・ザ・ダーク アテンド 檜山晃

視覚に頼って生きていると、聴覚、触覚、嗅覚をあまり使わなくなる。一方でファッションの世界は、「視覚」が何よりも重要視される分野である。echoプロジェクトに参画している、ファッションブランド『ANREALAGE(アンリアレイジ)』のデザイナー森永邦彦は、自身の考えをこう語る。

「衣服とは、羽織っただけで人の感情や気分にダイレクトに影響を与えるもの。だからこそ私は"ファッション=感情に作用する装置"と捉えているのですが、感情以外のスイッチにもなり得るのではないかと、常日頃考えていました。着飾ること以外のファッションが持つ機能を拡張するような試みで、ファッションの壁を超えたい。だからこそ、服を越えた服をつくることに興味がありました」(森永)
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文=長嶋太陽 写真=松平伊織

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