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2016年に完成した東秩父村のハブは、「和紙の里」にある。道の駅のほかに紙漉き体験や研修所、食堂、移築された文化財などがあり、撮影時も中国からの団体客で賑わっていた。

埼玉県の山あいに海外からの視察が相次ぐ。バス路線を組み替えたことで生まれた賑わい。大手バスが撤退した町を蘇らせたのは、ITと人間力の絶妙な組み合わせだった。


2006年4月1日は、イーグルバスにとって歴史的な一日となった。大手バス会社が経営を断念した埼玉県日高市の路線バスを、引き継ぐことになったのだ。路線バス事業は、バス会社として「格上」。ひと昔前まではドル箱だったこともあり、大手企業や自治体でなければ運営できなかった。

「3月31日の夜、停留所の(会社名の)表記などを一気に全部変えて、そのまま、ただ引き継いだんです」と、社長の谷島賢は振り返る。

ところが船出は、惨憺たる結果に終わった。初年度は、2000万円もの赤字が出た。

「始めた当初、不思議に思ったのは、なんでこんな人のいないところに停留所があるのかなと。社会環境がガラッと変わったのに、路線バスは30年以上、同じルートを走り続けていました。必要な人を必要な場所に運ぶ。これがバスの原点。ともかく一度、リセットが必要と思いました」

バスに、GPSと赤外線センサーを取り付け、各停留所で乗降者数を長期にわたって調べた。そう書くと簡単なようだが、センサーはドイツ製、車内に搭載したコンピュータはイスラエル製と、耐久性と信頼度を兼ね備えた機器を見つけるために世界中をリサーチし、システムを構築した。

さらには、そのデータを独自の表にまとめ、色分けした。谷島が言うところの「見える化」であり、一瞬で、停留所ごと、時間ごとの平均乗車人数が把握できた。青が「0人」、水色が「0. 9人以下」。

ほとんどの部分が、青と水色で埋まっていた。

「うちにいた大手バス会社のOBが、こんな表は初めて見たと。それくらい画期的でしたが、『こんなに少ないの』というのも見えちゃった」

路線バスは1970年代前半までは、全国で年間100億人を運んでいた。現在は42億人にまで減少。

つまり、6割のマーケットを失ってしまったのだ。現在、約2000社あるバス会社のうち、約7割が赤字だという。「見える化」は、その現実を冷酷に物語っていた。谷島は淡々と言葉を紡ぐ。

「あの表を最初に見ていたら、引き受けてなかったでしょうね」

仕組みをつくれば、人と街が転がりだす

イーグルバスは80年、川越市に谷島の父によって設立された。社名の「イーグル」は、ゴルフ好きの父が「バーディーと違って、イーグルは運も実力もないと取れない」と、縁起をかついだ。

大学卒業後、東急観光に入社した2年後、谷島は父に家業に就くよう言われ、しぶしぶ従った。

「その頃は、川越が大嫌いでしたからね。歴史のある町はみんなそうなんでしょうけど、すごい封建的な土地柄でしたから」

バスには大きく分けて3つの事業がある。送迎バス、観光バス、路線バスの3種だ。当時、送迎バスは許可制で、後の2種は免許制だった。したがって、送迎バスがもっともハードルが低かった。イーグルバスはまずは特別支援学校の送迎を請け負った。9年後、ようやく観光バスの免許を取得して高速バスに進出。バブルが弾け、観光バス事業が低迷すると再び送迎バスが柱となった。


バブルが崩壊した1990年代、川越は「小江戸川越観光」で大ブレークした。イーグルバスはレトロバスを運行。

おおむね順調に成長してきたときにもちかけられたのが、日高市の路線バスだった。

「ある種のうぬぼれもあった。大手には無理でも、うちならコスト的に見合うんじゃないかと。また、川越市の隣の市が交通空白地帯になることは避けなければならないという職業的使命感もあった」

1年目は大失敗したが、走らせる時間帯やルートを見直したことで少しずつだが業績は回復した。

そんな中、画期的な運送システムも考案した。06年、ときがわ町の路線バスも手掛けたときに思いついた「ハブ&スポーク方式」だった。航空業界ではよく聞くシステムだ。町の真ん中に小さな拠点をつくり、そこから自転車のスポークのように放射状に路線をのばすのだ。

地方の路線バスは長い路線が多いため、本数が少ない。たとえば片道1時間の路線は、往復で2時間かかる。となると2時間に1本しか走らせることができない。しかし、その路線の真ん中にハブがあれば1時間で往復できるため、乗客には乗り継ぐ手間を強いるが、1時間に1本の運行ができる。

しかも、乗客からしてみればハブで乗り換えることで、今まで行けなかった場所にもアクセスができる。導入当初は「バスなんて乗り換えるもんじゃない」という批判もあったが、ときがわ町のバス利用者は1.7倍に増加した。

イーグルバスでは、客のニーズに合わせていくことを「最適化」と呼んでいる。谷島が話す。

「最適化で業績はグーッと上がる。でも、3年もすると頭打ちになる。直すところがなくなるからです。その間、地域の人口は減少していますから、何もしなければやがて業績は下がっていきます」

文=中村 計 写真=佐々木 康

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