地方創生において、若者の力は重要だ。しかし、若者だけで盛り上がってしまい、無意識のうちに世代の違う人たちを排除してはいないだろうかと考えることもある。私にも少し思い当たる節がある。魅力的な「まちづくり」には、若者に限らずさまざまな世代の人々が集まり、意見を出し合い、行動することが必要不可欠だ。
住民参加型の「まちづくり」
コミュニティデザイナーとして活動する「studio-L」の渡辺直樹さんは、奈良県川上村の「まちづくり」に関わっている。川上村の人口は約1300人、65歳以上が約60%という、いわゆる過疎の進む地域だ。
人口は減少傾向にある川上村だが、林業が盛んで、ここで生まれた「吉野林業」という手法は、林業のお手本の1つになっている。また、川上村という名前の通り、ここが水源となって、周辺地域とも緊密に繋がっている。……と、魅力的なものはあるのだが、あまり知られていない。
渡辺さんは、地域に埋まっている宝物をわかりやすく、より魅力的に伝える。渡辺さんが企画段階から携わり、デザインを担当した川上村のWebサイトは、写真やデザインの選定など、村がとても魅力的に表現されている。
そんな渡辺さんが大切にしているのは、住民参加型の「まちづくり」だ。川上村のHPも、ただ見てくれがいいサイトをつくるのではなく、村の内外の人たちが関わりながら、そこから情報を発信するサイトとして作成されている。サイトの開設にあたっては、どんな情報を伝えたいかを皆で話し合い、開設後には、参加者を募り、村の面白い人たちの取材なども行なっている。
行政からの一方的なものではなく、住民参加型で行うことで、住民の方たちにも当事者意識が生まれ、さまざまなアイデアも生まれる。それを取りまとめ、コーディネートしていくのが渡辺さんの役割だ。
個人的にお付き合いすることも
私自身もコミュニティをつくり、さまざまなプロジェクトを立ち上げているが、渡辺さんのように、高齢者の方々も巻き込んだ取り組みは正直言って苦手だ。渡辺さんに聞くと、こんな答えが返ってきた。
「仲良くなると、自然とタメ口になっているときがあります。礼儀はわきまえますが、友達のようになってくると、言葉遣いも自然とやわらかくなっていくのです」
それは渡辺さんの仕事スタイルにも現れていた。渡辺さんは行政からの依頼を受け、コミュニテイデザイナーとして「まちづくり」に関わっている。つまり、渡辺さんにとっては仕事なのだが、その周りにいる人たちはボランティアとして関わっていることが多い。
「あいつは金をもらっているのに、なんで自分たちはボランティアでやっているのか」そんな不満やトラブルが出てもおかしくないだろう。悪意を込めた表現をすれば、「やりがいの搾取」とも言えるが、そのようなことを言われた経験はないという。
「地域のみなさんの意見をしっかり汲み取り、それを形にするためのお手伝いをきちんとやっていれば、“自分たちのやりたいことを手伝ってくれている人”ということで、仲間だと思ってもらえるのかもしれません。行政からの委託期間が終わっても、個人的にお付き合いすることも多いのです。気軽な相談から、別案件の仕事としての場合もあり、内容は幅広いですが、行政抜きでも繋がって、全国に友人が増えていくのはとても嬉しいですね」
「studio-L」の渡辺直樹さん(左)
年齢にこだわらず、地域をより良くする仲間として考える。よくありがちな「まちづくり」では、若者を呼び込もうとする取り組みが目立つが、そもそも、若者や高齢者という分け方をすること自体がナンセンスなのかもしれない。