「旅籠丸八」のように、用途によって施設を分ける宿泊施設を“泊食分離型”や“分散型”と呼び、宿泊業界でも注目を集めている。具体的には、自然と街を回遊できるため街自体に宿泊するような体験が生まれる他、機能によって施設を分けることで運営面の効率も期待できる。昨年10月京都にオープンした、5棟の異なるコンセプトを持ったホテルの複合施設「エンソウアンゴ(ENSO ANGO)」も、分散型ホテルとして話題になった。
HAKUBA TSUGAIKE “WOW!”(提供)
実は、白馬にはここ数年、立て続けに目新しい施設がオープンしている。マウンテンバイクの聖地と呼ばれた「白馬岩岳MTBパーク」の復活を皮切りに、フランス発祥のアドベンチャーパークを日本初誘致した「HAKUBA TSUGAIKE ”WOW!”」(2018年8月開業)、白馬三山をのぞむ絶景テラス&ベーカリーカフェ「HAKUBA MOUNTAIN HARBOR」(2018年10月開業)などで、2020年には隈研吾が設計するスノーピークの体験型商業施設も完成する。
町おこしのキーマンは元農林水産省官僚
白馬観光開発 代表取締役社長 和田寛氏
そのキーマンと呼べる存在が、白馬の町おこしを続ける白馬観光開発の和田寛社長だ。和田社長は東京大学法学部を卒業後、農林水産省に入省。その後アメリカでMBAを取得し、戦略コンサルティングファームのベイン・アンド・カンパニーを経て、2014年に白馬観光開発へ入社した異色の経歴。
和田は「東京出身ながらも、中学生の頃からスキーのために毎年長野を訪れていた。当時はスキーバブルでしたね。山や自然が大好きで、こうしたフィールドを後世に残したいという思いから農林水産省に入りました」と当時を振り返る。
コンサル時代に白馬観光開発を見つけた和田はこう思ったという。「昔から通っていた白馬ですが、リゾートとしてのレベルは段違い。日本には白馬を超えられる場所がほとんどありません。しかも、人里離れた大自然ではなく、人が住む場所で、あれだけ素晴らしい自然がある場所は他にない。足りていない部分を補うことで、白馬は変わるんじゃないかと確信しました。今のままでは日本の宝が殺されてしまう。そこに自分の人生をかけてみよう」。
当時は1998年の長野オリンピックから15年が経って施設の老朽化が進み、スキー人口もピーク時の3分の1ほど。スキー産業は斜陽。和田は直接サイトからメールで履歴書を送って「白馬の事業がやりたい」と伝えた。