なぜ彼はこれほど長い間、性的暴行の罪を隠すことができたのか。そして、どのようにして今後同じような過ちを防ぐことができるのか。被害者たちがナサールの犯罪行為について語る衝撃的な証言は、こうした疑問を投げかけている。
彼が長いこと捕まらなかった理由のひとつは、不法行為の疑いを報告する義務が軽視されてきたことだろう。現在議会でつくられている法律が、そうした状況を改善できる可能性がある。
上院を通過した超党派による法案「The Protecting Young Athletes from Sexual Abuse and Safe Sport Authorization Act of 2017」は、若いアスリートを性的虐待から守るためにつくられ、オリンピックスポーツ/ユーススポーツ団体のメンバーに対し、性的虐待の疑いを政府機関に報告するよう義務付けるものである。またこの法案は、「SafeSport」(2012年に米オリピック委員会が発足した虐待防止プログラムを行う団体)に、性的虐待に関与した人物の調査・処罰を行う権限を与えることになる。
調査・処罰の権限を移行することは重要だ。米国体操連盟のポリシーや習慣を調べた調査では同連盟について、「メンバーには性的虐待の報告義務がなく、報告を怠ったことに対する処罰もない」ことが指摘されている。こうした組織の習慣があったことから、米オリンピック委員会(USOC)は米国体操連盟の理事に総辞職を求めることになったのだ。
問題の核心は、性的虐待の被害が報告されたときに、果たしてどの組織に(そしてそのなかの誰に)責任があったのか、誰が問題を見落としていたのかということだ。ナサールの被害者が最初に声をあげたときに適切な対処がとれなかった原因は、米国体操連盟にも、USOCにも、ミシガン州立大学にもある。そうした責任から、米国体操連盟のディレクター、ミシガン州立大学学長ルー・アンナ・サイモン、同大学アスレチックディレクターのマーク・ホリスが辞任することになった。
アマチュアスポーツ法の功罪
なぜ人々は行動しなかったのか? 原因はスポーツ界の文化にも、組織の文化にもあり、適切な対処がとられなかったのは「テッド・スティーブンスオリンピック及びアマチュアスポーツ法」(Ted Stevens Olympic and Amateur Sports Act)の意図せぬ結果でもある。
この法律は、USOCに、米国内に存在する47の国立スポーツ団体を含むすべてのオリンピックスポーツ関連組織を束ねる特権を与えるものである。これはアスリートの権利を守るためにつくられたもので、そのなかにはコーチや職員が、スポーツ界から追放される前に不正行為について知らされる資格も含まれる。良い面のなかには悪い面もあるものだ。性的虐待を行った人物は、調査が行われている間に組織から離れ、ほかの居場所を見つけることができてしまう。