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あらゆる旅先を博物館化する

Photo by Hiroshi Homma / Yuki Naruse

アントニ・ガウディはかつて、「オリジナリティを見つけるためには、オリジン、つまり起源に立ち戻ることだ」と言っていた。

その文脈でいうと、日本の起源について考えるとき、僕たちは奈良を見なければならない。日本ではじめてできた本格的なお寺である飛鳥寺。薬に相撲、墨も奈良が起源だ。食だって奈良発祥のものがたくさんある。

奈良時代、お寺は総合大学のような役割を果たしていたことから、世界各地のあらゆる情報が奈良に集まっていた。お茶や柿も奈良を起源とするほか、チーズの元になる「蘇(そ)」も作られた。清酒は正暦寺をルーツとし、饅頭もまた奈良を発祥とする。

日本のことを理解するには、まずは奈良から勉強するのがいいと思った。スタートラインに立つということだろうか。だから、ON THE TRIPガイドの作成は、まずは奈良を拠点にはじめた。僕たちのオフィスはマイクロバスを改装したバン(キャンピングカー)。かれこれ5ヶ月近く奈良に滞在し、ここを拠点に、京都と行ったり来たりした。地元のおいしい食、美しい風景、素敵な笑顔にたくさん出会った。

中でも、とてもお世話になった二人の起業人がいる。奈良で「粟」「cotocoto」という飲食店を経営している三浦雅之さん。そして、ビジネスとしての柿の葉寿司の元祖「平宗」の前代表で、いまはかき氷屋「ほうせき箱」を中心に、奈良を起源とするものをブランド化しているSOUSUKEの平井宗助さん。

彼らは、まさに「オリジンに立ち戻ることで、オリジナリティを再発見」していた存在。奈良の起源を大切にして、それをうまくビジネスに昇華し成功していた。

里山のミシェランレストラン「粟」の秘密

奈良駅から、タクシーで約20分ほど。アクセスが決していいとは言えない里山にあるお店には、連日人が絶えない。2ヶ月先まで予約が埋まることだってしばしば。「清澄の里 粟」。二人の夫婦が、農業をしながら自分たちでつくる大和野菜を提供しているレストランだ。2012年にはミシェラン1つ星も獲得している。



そう、ここにはわざわざ行きたくなる理由があるのだ。彼らは自分たちで奈良を起源とする野菜を多くの人へと伝えるため、一から勉強し、隣接する畑で育てている。野菜へかける熱量はひとしお。ランチのみの営業で、入れる人数も限られている上に、すべてセットメニューなのだが、いやだからなのか、ファンがとても多い。一つ一つの野菜を出すたびにその野菜の起源を教えてくれるのだが、これが大人気の秘訣なのだ。

非効率さが生み出す、エモーショナルな物語

それはたとえば、こんな調子で始まる。

「粟とは、ひらがなで、あ~わまで、つまり始まりから終わりを意味するんです。日本ではそう言われるほど貴重な穀物だったのですが、栄養価はもちろん、その理由は種にあります。一粒植えると、万粒種をつける。それほど育ちがいい。いまでも一粒万粒日という日がありますが、それは粟からきているんですよ」

「ここに出されている三種類のトマトの生まれにはそれぞれ違いがあって……」と、そのどれもがおいしい話。このようなことを一人ひとりに話すのは一見非効率に見えるかもしれないが、確実にお客さんの心に響いている。少なくとも僕には響いた。

野菜の起源の物語を噛み締めながら食べる料理はなおさらおいしくなる。さらに、テーブルには料理に使われている野菜たちも置かれており、食事をだす時に教えてくれるためイメージしやすい。観光客ならば、その地の発祥のものを食べたいと少なからず思うだろう。それらはもちろん、ガイドブックには載っていない物語。人気が出ないはずがないのだ。

さらに、ここには山羊がいる。とても頭のいい山羊「ペーターくん」は、お客さんが来ると自分で扉をあけて挨拶をしにくる。当時は、レストランで動物を飼うなんて、と批判もあったそう。いまではどうだろう。ペーター目当てのお客さんもいるほどだ。

文=成瀬勇輝

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