小売業者の多くはより幅広い層の顧客を獲得することを狙い、苦心の末に考案した消費者向けのイベントなどを開催するなどしている。だが、英国の老舗高級百貨店ハロッズが重視するのは、より「ミクロな」アプローチだ。
ハロッズのマイケル・ワード社長はこの方針について、「われわれが目指すのは、限られた顧客のためのたった一つの店だ。ターゲットとする消費者は、割合としては小さい」と述べている。さらに、自社を銃に例えて「ラッパ銃(散弾銃)ではなくライフル銃だ」と語った。
世界の富裕層がターゲット
ワードによれば、英国に滞在する中国人が小売店での買い物に使う金額のうち、25%がハロッズで支払われている。また、中東からの旅行者で見ると、この割合は50%に上る。
「外国人旅行客はハロッズでの買い物に大金を支払っている。世界中の高額所得者の大半が、ハロッズで買い物をしているのだ」
また、ワードは旅行に関する消費傾向の変化も敏感に感じ取っている。中でも中国と中東のほか、マレーシア、韓国、タイの旅行者に大きな変化が見られるという。
「彼らは買い物のためではなく、何かより多くのものを得るためにお金を使いたいと考えている」「富裕層はありふれたものを求めていない。彼らは何かと関わり合い、楽しみたいと思っている」
さらに、世界全体において、「小売販売を超えた(顧客との)関係性重視の方向への変化が見られる」と指摘する。
重要なのは「適応力」
こうした変化を背景に、ハロッズ自身も変化し続けている。売り場面積を広げ、百貨店に一般的なファッションばかりを重視することにとどまらず、顧客が楽しめるものを提供している。
ワードによれば、「それを示す良い例が、今年5月に開設したウェルネスクリニックだ。最も優れた医師や美容の専門家らを招き、DNA解析に基づくスキンケアやダイエットのアドバイスを受けられるようにした」。