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2017.10.20 15:00

世界遺産ならぬ「日本遺産」で地域活性化


そんな話を聞きながら、物から遡って理解する歴史は深い、と僕は思った。物だけではない、街、人、文化からでも歴史は遡ることができる。歴史の教科書もそんなふうにつくられていると、興味深い内容になるのではないだろうか。通常の日本史は、縄文時代から始まり、江戸時代までを時系列的に淡々と学び、近代にいたってはサクッと知るだけだ。だが、いまの時代にとって大切なのは、むしろ明治・大正・昭和の時代ではないか。

だから、教科書もむしろ現代から始めてみる。いまこうなっている理由はここにあり……と遡り、そこから先に進めなくなったら現代にまた戻る。関連するものをつなぐことで歴史を編み直すのである。そのほうが学ぶ目的がある気がするし、いま自分たちが生きている実感も得られるように思う。

地方に伝わるストーリーを遺産に

まさしくこの関連するものをつないで歴史を編み直したものが、15年から始まった「日本遺産」である。

「保存から活用の時代へ」と方針転換した文化庁は、地域の歴史的魅力や特色を通じて我が国の文化・伝統を語るストーリーを「日本遺産」として認定しはじめた。世界遺産登録や文化財指定との違いは何かというと、それらはいずれも指定される文化財(文化遺産)の価値付けを行い、保護を担保することを目的とするが、日本遺産は地域に点在する遺産を「面」として活用し、発信することで、地域活性化を図ることを目的としている。

簡単にいうと、「熊本城」「富士山」みたいな単品ではなく、「かかあ天下ーぐんまの絹物語ー」「日本茶800年の歴史散歩」のように、文化や伝承が育まれた地のストーリーそのものなのである。ちなみにこれまでに認定された日本遺産は54。今年度予算はなんと13億5000万円が計上されている。

僕は日本遺産の審査員を務めているのだが、ユニークだなと思う点は、その地を訪れることにより日本の歴史をひもとくことができること。日本遺産は「生きた歴史の教科書」なのだ。個人的に好きなのは、今年認定された「忍びの里 伊賀・甲賀ーリアル忍者を求めてー」。

日本人なら「忍者」のイメージを誰しもが共有していると思うが、その実、彼らの真の姿はよく知らない。たとえば僕はこの日本遺産で「午前中は家業に精励し、午後には寺に集まって軍術・兵道の稽古をした。いざ戦となれば村に鐘が鳴り響き、お百姓さんからお坊さんに至るまで、それぞれ得意の武器を持って立ち上がった」という忍者の日常を知った。忍びの里には関連する神社や城跡など数々の足跡が残っており、戦乱の時代を駆け抜けた忍者の姿を想像できる。

フランスを旅するとき、人はミシュランガイドを片手に旅をする。ミシュランはご存知タイヤメーカーであり、ガイドブックはパリ万博が行われた1900年に自動車運転者向けに発行された。つまり政府ではなく、民間企業がつくったものが、今日まで旅の相棒となっている。日本遺産も、認定は文化庁が行うとして、いずれはそれを素材にした商品のアイデアを民間企業が企画し、盛り上げていくのが理想かなと思う。まずはブリヂストンさん、いかがでしょうか?

有意義なお金の使い方を妄想する連載「小山薫堂の妄想浪費」
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イラストレーション=サイトウユウスケ

この記事は 「Forbes JAPAN No.39 2017年10月号(2017/08/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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