公務員のキーマンの特徴は、地域内と外を結ぶ、持続的な仕組みをつくっている点だ。
今年3月まで鹿児島県長島町の副町長を務めた井上貴至は85年生まれ。総務省に入省し、中央官僚を地方に送り出す「地方創生人材支援制度」を提案。自ら応募して第一号となった。ブリ養殖が盛んな過疎の町・長島町で井上が目をつけたのは、ブリが回遊魚である点。彼は「ぶり奨学プログラム」を始めた。学校を卒業した子どもが10年以内に町に戻ると、奨学金の元金を補填する仕組みだ。
「地元の信金さんと提携して、超低金利の奨学ローンをつくってもらいました。また、漁協からはブリ1本売れると1円、養豚場からは1頭につき、30円の寄付をいただいています。こうすれば、町の皆さんで制度を支えることができる。後継者問題で悩む事業者も喜んでくださっています」と、井上は話す。
回遊魚のぶりにちなんで名付けられた「ぶり奨学金制度」
井上は4月から愛媛県に異動となったが、彼は多くの仕組みを長島町に残した。辻調理師専門学校が生産者にアドバイスをする食材のブランド化や、人材会社ビズリーチのサービスの活用だ。大手企業のビジネスマンや知見をもった人々が産業振興に参加。外部の人材と協力して養豚場の厄介モノである豚糞からメタンガスをつくり、そのガスを利用した熱を使って、じゃがいもの栽培をする実験も始まっている。井上はこう言う。
「現場に出向けば、素晴らしい資源や仕事はたくさんあり、それをうまく伝えていきたかったのです」
公務員をつなぐ「よんなな会」
中央官庁に出向する地方公務員は、2〜3年で地元に戻ると、役所で中枢の立場になる。それならば、東京滞在中に仲間になり、地方で何が起きているか課題を共有しようと、総務省の脇雅昭が2010年につくったのが「よんなな会」だ。
「交流会を呼びかけても、ケータリングの料理を食べるだけでは、みんなお客さん気分になってしまう。そこで、こう呼びかけました。みんなに食べさせたいと思う地元の一品を持ち寄りませんか、と。すると、みんな考えるんです。会場は熱気に溢れ、とにかく宣伝したがる。価値を再発見することにもなるし、知恵を出し合う場となるのです」
今年開催された「よんなな会@渋谷ヒカリエ」には約550人の自治体職員や国家公務員が参加。
脇は、82年生まれ。「メンバーは地元に戻ってからもフェイスブックで連絡を取り合う」と言う。
このつながりの意味は大きい。例えば、「起業したい」と、若者が市役所の窓口を訪ねてきても、対応できないケースがある。しかし、よんなな会のグループに呼びかけることで、思わぬ展開が起きる可能性がある。公務員が単につながっているだけでなく、知恵を活性化できるのだ。
年に4回、500人規模で開催される「よんなな会」に参加した者の多くが、脇にこうメールする。
「なぜ公務員になったのか、初心を思い出しました」
ほんの一工夫で、地方創生の火はつくのだ。